ー 武士の商法 ー
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「定年後」
楠木 新 著 中公新書
明治になって、それまで代々役人として、決まった扶持で暮しを立ててきた武士は突然職を奪われ、巷に放り出される。
役人として官に職を得たのはほんの一部で、大部分の武士は見よう見真似で商売をはじめた。「武士の商法」とは慣れない商売に手を出し、失敗することをを皮肉ったことばである。
今でも、会社がつぶれたり、体を壊したりすると、これまで経験したこともない仕事、思いもしなかった仕事につくことがある。しかし所詮武士の商法、すごすごとスタートラインに戻る結果になることも少なくない。
私のケースは詐欺だった。
一念発起、自分の商売を始めた。ある会社が輸入したビン詰めの果汁を買って他社に卸したり、小売りをする単純な仕事である。
まずはお客を増やそうと、輸入元と相談して東京ビッグサイトの展示会に出展した。数百枚の名刺が集まった。その中のある業者が注文をくれた。開店早々の注文ほど嬉しいものはない。欣喜雀躍、1ダース入りを数ケース、指定された倉庫に自分で配達した。
ところが、支払い期限はとっくに過ぎているというのに1円の入金もない。2,3度催促したが「もう少し待ってくれ」の繰り返し。年の暮れも迫ってきた頃になって、「これはひょっとしたら?」と思い、車を飛ばして配達先の倉庫に行ってみると案の定もぬけの空だった。
その後代金を半分しか回収できないケースもあった。
いわゆる取り込み詐欺。世間知らずのにわか商売人が落っこちる罠である。
だからといって、「懲りた。もう商売は絶対やらない」というわけにはいかない。勉強してやり直しだ。そうしないと年金はだんだん痩せていくし、これにインフレがかぶって来た日には3度のおまんまが2度になりかねない。
ついでながら、「もう年だから」は禁句らしい。アメリカのヘンリー S.ハスキンズ というエコノミストは「学ぶには年をとりすぎている人は、おそらく常にそうだったのだろう」と辛らつなことを言っている。
( 次回は ー インフレ ー )