ー お父さんとお母さん、どっちが好き? ー
おばあちゃんが小さい孫に聞いた。
「お父さんとお母さん、どっちが好き?」
孫は答えた。
「おばあちゃん、そんなことわからないよ。だって、お父さんは会社で一生懸命働いている。お母さんは毎日おいしいご飯作ってくれる」。
おばあちゃんは恥ずかしいことを聞いてしまったと思い、同時にお母さんはよく子どもの教育をしていると感心した。産經の読者投稿欄で目に止まった文面の一部である。
「どっちが好き?」と聞かれた時、「お母さん!」と答える子どもは多いのではなかろうか。母親は朝学校に行く時、服を着せてくれるし、忘れ物はないかと心配してくれる。学校が終わって家に着くころには道路まで出てお迎えしてくれる。今日はどんなことがあったの?と聞いてくれる。父親に叱られたら「可哀そうに」と慰めてくれる。
対して、父親は自分が学校に行く頃にはもういない。会社という所にに行ってるらしいが何をしてるか知らない。よく叱られる。給料日に父親が母親に給料袋を渡すところなど見たことがない。
子どもが母親を好きになる道理である。「誰がメシ食わせてやってると思ってるんだ!」と言っても子どもはわからない。
賢い母親は折につけ、お父さんが一生懸命働いてくれているからご飯が食べられるんだよと教える。
凡庸な母親はそこまで頭が回らない。
かえって、父親が子どもを叱ると子どもをかばう。母親のこの性向は江戸の昔から変わらないらしく、鍋島(佐賀)藩士、山本常朝は「母親は何のわけもなく子を愛し、父親意見すれば子の贔屓をし、子と一味するゆゑ、その子は父に不和になる也。女の浅ましき心にて、行く末を頼みて、子と一味すると見えたり。」と言っている(「葉隠 上」 和辻哲郎 古川哲史 校訂 岩波文庫)。