ー 10万円が3.5万円 ー
「小説 日本銀行」
城山 三郎 角川文庫
歳を取ると心配症になる。
この物価高、インフレ、そして年金はどうなるのだろうか等々。
そこへ持ってきて、
① 2024年 3人に1人が65歳以上
② 2025年 東京都も人口減少
③ 2026年 認知症患者 700万人
④ 2027年 輸血用血液が不足
⑤ 2030年 百貨店、銀行、老人ホームが地方から消える
・・・ (「未来の年表」 河合雅司 講談社現代新書)
などと言う人に出会うと、いよいよこの世の終わりかと思う。
もっとも、個人的には新聞やテレビ、本などは “ 情報屋 ” としてひとくくりにしている。この情報屋の常として、よそよりも早く、よそよりも目立つ形で、よそよりも儲けたいと考える悪いクセがある。
だから、常々ここのところを割り引いて考えなければいけないと思っている。そうはいっても経済については根っからの素人、何か頼りになるものがほしい。とりわけインフレが気になる。なにより実際に起きたことの方が参考になる。そう思って探していたら、城山三郎の「小説 日本銀行」を見つけた。終戦直後未曽有のインフレに見舞われた日本の様子を舞台にした経済小説である。
その中に、銀行員の津上が10万円の定期預金証書を質に入れるくだりある。(第十六章)。こうである。
“ 三軒目の質屋で,3万5千円なら貸そうと言った。「冗談じゃない。半年経てば、まちがいなく10万円出るんだよ」津上がおどろいて言うと、額の抜け上がったおやじは、にこりともせず答えた。「だから、いけないんだよ。物価は上がる一方。半年待つ中に、3万か2万の値打ちしかなくなっちまう危険だってある。品物とちがうんだ。」
(中略)「この時勢に定期預金をするなんて、あんたもどうかしてるな。どこぞの銀行にだまされでもしたんかい」 「いや」 「それじゃ、あんた自身がよっぽどめでたいというわけだ。世間のことに〇〇なんだな。・・・ いったい何の商売だね」” (〇〇は伏字とした。世間にうといという意味)
先がどうなるかを考える場合、よくできる限りの情報を集めて見定めようとする。しかしこれは往々にして情報の密林に入り込み、方向がわからなくなる危険がある。そうすると素人としては “ 賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ ” などということばを思い出してしまう。
集めた情報のなかにフェイクニュースが入り込む恐れのあるかもしれない昨今においては尚更である。