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田舎ぐらし(23)

 ― 山 の 神 ー


都内でもらったおふざけ号外

「是非結婚しなさい。良い妻を持てば幸せになれる。悪い妻を持てば哲学者になれる。」(プラトン)

「あんまり優しくするてえと、当人が図にのぼせちゃう。といって、小言をいやあ、ふくれちゃうし、なぐりゃ泣くし、殺しゃ化けて出る。」(「レトリック感覚」佐藤信夫 講談社学術文庫)

 二段目は志ん生の落語、「お直し」の一節。
化けて出るのは女である。男が出たというのは聞いたことがない。

  さて、男のなかには迂闊者がいて、見る目も備わらないうちに、自分で飯を炊かなくてよくなるという単純な理由で、化けて出るかもしれない女のひとりを嫁にする。嫁、つまり山の神である。

 男は次の日から自分の食い扶持に加え、山の神の分も稼ぐ破目になる。子が生まれる。山の神はもっと稼げという。子がふたりになる。山の神はもっともっと稼げという。そのうちに「家がほしい。」などとつぶやく。つぶやくだけでいい。男が然るべく忖度して家を建ててくれる。

男は稼ぎ疲れて先に死んでしまう・・・。どう考えても男の方が損である。

 対策としては、自分が稼いだ金はお迎えがくる前の日までに一円残らず使ってしまう。これなら帳尻が合う。妙手である。

 ところが、男は帳尻で損をしていることをうっかり忘れて、あるいは男の方が情が深いので、ふと、うちの山の神はおひとり様になった時、ちゃんと食べていけるだろうかなどと余計なことを考える。

 私は金はちっとも残せない。それでもご多分に漏れず余計なことを考える。耕運機で畝づくりはできるだろうか。オイル交換のやり方は覚えているだろうか。包丁はちゃんと砥石を使って研げるだろうか。教えなければならないことが山ほど出てくる。どこまで行っても帳尻が合わない。

 昔よく友だちと、今度生まれてくるときは男がいいか、女がいいかと話をしたものだ。よくよく考えて決めなくてはいけない。

                   ( 次回は ー 食料難 ー)

 

 
 

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