ー へその緒 ―
「へその緒が語る体内汚染」
著者 森 千里 千葉大学大学院医学研究院教授 医学博士
戸高恵美子 千葉大学環境健康フィールド科学センター助教 医学博士
戸高恵美子 千葉大学環境健康フィールド科学センター助教 医学博士
技術評論社 刊
子供の頃はそれを雷さまの好物ぐらいにしか思っていなかった。
朝、熱々のインスタントコーヒーを手に机に向かった。何気なく左手の書棚に目をやると、その“へそ”の本が見えた。
へその緒の話である。
母親と胎児はへその緒でつながっていて、胎児はへその緒を通じて母親から栄養や酸素を受け取っている。もし、母親が妊娠中になにか悪い物、つまり汚染物質を摂るとそれもへその緒を通じて胎児に取りこまれる。どんなものを摂ったかがへその緒に痕跡として残っているという。
続けて、ここ数十年、アレルギー、学習障害、多動性障害、自閉症などの子供が多くなった。これは母親が取りこんだ汚染物質のせいではないかというのである。
DDTもへその緒から見つかっていて、これも汚染物質だという。正確にはディクロロディフェニルディクロロエチレンというらしい。殺虫剤である。
昔、ノミかシラミ退治に使われた粉である。小学生のころだったか学校で女の子だけどこかに集められて頭に白い粉を吹きかけられた。真っ白になった頭で教室に帰ってきて粉をはたき落とすので、男の子は「うあーっ、あっちへ行け」と騒いだものだ。
DDTのマラリア蚊に対する効果は抜群で、「奇跡の殺虫剤」とまで言われた。しかし、撒いたところ、鳥や益虫まで死んでしまった。今は製造禁止になっているが川や海の泥の中からは必ず見つかるという。
安全な殺虫剤ということばはあるのだろうか。ない。虫を殺すから殺虫剤という。それが鳥を殺した。それじゃ、妊娠２０週目で脳ができ始めた胎児にはなんの悪さもしないのだろうか。
世界の主要国では、上記アレルギーや学習障害などの原因は母親が取りこんで子供に渡した化学物質のせいではないかと考え、大々的な調査をしている。日本のそれは「エコチル調査」という。
（次回は ― 奇跡のリンゴ ― ）
