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田舎くらし(193)

 ー 本 ー

 
 
 新聞に『読者投稿欄』がある。
私はまず、投稿者の年齢を見る。読むのは同年配か年上の投稿者のものに限る。自分より若いとたいてい中身が薄っぺらである。あるいは共感できない。こういう習慣は時間を無駄にせずにすむから貴重だ。

 ところが、先日この貴重な習慣に水を差す事件が発生した。「本大好き」という投稿のタイトルが目に入ったのである。年齢を見ると小学生。小さい頃から寝る前に本を読んでもらっていた。ファンタジーや推理小説が大好きだという。ファンタジーはこの先どうなるかワクワクするし、推理小説だと自分が探偵になったようでとても楽しい、とある。

 本を読んでくれていたのは誰か知らないが、そんな家庭もあるんだと、ほっとした。小さい頃の生活習慣は一生を左右する。

 昨今はスマホ流行りで、本は世間の隅で小さくなっている。
よくグラウンドに行って観覧席の一番上の陽の当らないところで軽い運動をする。そこから裏手の並木通りを見下ろすと、大人や子どもがぞろぞろ歩いている。みんなスマホを手にしている。読書の習慣がないのは気の毒である。

 本はページをめくるだけで自分をアフリカの奥地の探検家にしてくれる。火山の噴火口から地底旅行に連れて行ってくれる。帆に風をいっぱいに受けて走る捕鯨船の船長にしてくれる。二頭建ての馬車で中世のパリの街を駆け抜ける剣士にもしてくれる。
 挨拶の仕方、箸の持ち方、今ではめったに目にすることのない男らしさや女のたしなみについても教えてくれる。

 なによりもことばを覚える。人はことばでものを考える。ことばで脳裡に絵を描き、動きを想像する。スマホの動画だとこの作業がいらない。つまり脳は働く必要がない。働かない脳は “ 錆びる ” 。

 夏休みに子どもをどこにも連れて行ってやれないとこぼす親がいると聞くが、読書の楽しさを教えてやったらどうか。そこらの海や温泉に行くより余程マシだ。脳が錆びないし、時空を超えた大きい旅をさせてやることができる。

 


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