ー 女 脈 ー
「葉隠」 和辻哲郎・古川哲史校訂 岩波文庫
東洋医学に脈診がある。
患者の手首に指をあて、脈の強さや速さ、深さで体の状態を知ろうというものである。
本来男の脈と女の脈は違う。
ところが、関ケ原の戦いからおよそ100年経った元禄時代、男の脈が女の脈と同じになった(「葉隠」聞書第1)。
これが武士をどう変えたかというと、例えば、切腹の際、介錯を申し付けられてもあれこれ言い訳をして逃げるような振る舞いをする者が増えてきた(同)。
今の日本はどうか。
テレビの報道を見て、「なんだこれは!」と思うことがある。例えば台風で荒れている川の様子を伝えるのに、「安全な所からお伝えしています」と言う。どこにいるかと思えばホテル。部屋の中から川にカメラを向けている。
そういうことを臆面もなく言う。
報道のプロならできるだけ流れに寄って撮るべきだろう。例えホテルの部屋から撮影していても、「安全なところから」などとは恥ずかしくて口に出せないものだ。
オリンピックにしてもとても競技とは思えない “ 種目 ” に参加する。まるで大道芸人である。
あるいは “ パワハラ ” 。上司にちょっと強く指示されたり叱られたりするとハラスメントだと騒ぐ。自衛隊の射撃訓練で、「撃てー!」と号令がかかった。新兵がそれをを取り上げて、「大声で命令された」と文句を言ったという。ここまでくると噴飯ものである。
思うに、元禄の昔と同様、平成・令和の現代、男の脈は女脈になってしまったらしい。ということは日本人全部が女脈ということになる。このままだと先々閻魔さまの前に行った時、お国自慢もできない。