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同人サークルA-COLORが北海道をうろうろしながら書いているブログです

桐島、部活やめるってよ

2013-01-05 12:51:00 | 映画-2013年

01 「オレはアケボノ」

昨年公開された『桐島、部活やめるってよ』ですが、今年、札幌の名画座・蠍座で上映されるっていうんで見に行ってきました。

昨年公開された邦画では、かなり評価の高かったこの作品。
そういった評判が目や耳に入っていたので、自分的にはそれなりにハードルが上がった状態で見ました。
ちなみに原作は読んだことありません。

というわけで、以下にネタバレしつつも感想を。

ハードルが上がった状態だったけど、それでもすごく楽しめたし面白かったです。
方々でも言われていますが、日本の高校という閉鎖空間で繰り広げられる群像劇としても良くできていたと思います。

群像劇ということで、いろいろな登場人物=高校生が出てくるのですが。
群像劇でおなじみのヤクザやサムライと違い、ここに出てくるのはフツーの高校生。
彼らの存在感や立ち振る舞いは、役者たちの演技やセリフも相まって、一般人な我々にとって非常に感情移入しやすいものです。
ようするに「あるあるネタ」で盛り上がりやすく、見終わった後にみんなで語りやすい舞台設定だったと思います。

んで、どのへんに、どの程度の感情移入をするか、なんですが。
私的には、どうしても映画部の前田になってしまいます。
武文との超アツい友情パワーがたまらんです。

映画部顧問の先生のイヤらしさも、まさに「オトナはわかっちゃいない」感が溢れていてよかったです。
高校生にとっての半径1メートル、高校生なりのリアルってのは自分が本当に興味のあること――前田であれば映画であったり、ゲームであったりするわけですが。
先生は上っ面しか見ていなくて、そういうことが理解できていないようなのです。この無理解っぷりが先生らしく不愉快で良かったです。
さらに言うと、シネマハスラーでも指摘されていましたが、先生が求める上っ面の半径1メートルこそが、この作品で描かれる世界観っていうのもまた良かったです。

あと前田がイオンのシネコンで『鉄男』を見ていたシーン。
同級生の美少女と出くわすという千載一遇のチャンスで、前田がキモヲタ発言を連発するイタさもシビれるようにたまらんかったです。
でも、この前田のキモヲタ発言はアリでしょう!
自分を偽るより、ここはむしろ「物体X、超イイよね! そういえば、カールビンソンのジョンって物体Xそのまんまだけど、あの我路映劇って実在するって知ってった? ゲショゲショゲショ」っていうぐらいの女の子と付き合うべきなんですよ、ここは!
むしろ、物体Xを知らない方がどうかしてるんだ。

こんなカンジで、わりとキモヲタはキモヲタっぽく、ひっそりと高校に生息していたはずなのに…。
「桐島不在」により、桐島との関わりが高校生活の半径1メートルだった生徒たちを中心に、さざ波のように影響を及ぼしあっていきます。
そのさざ波は、やがて前田にも及んできて――そもそも前田にとって、桐島は半径1メートルどころか眼中にない存在だった(たぶん桐島も)のに、その波がじわっと及んできます。
この「じわっと」感や、さざ波に当てられて態度や行動が変化していく様は、見ていてホントに興味深いです。
特にこの映画の場合、登場人物が自分の内面を語るシーンは皆無なので、心理状態は行動から推測するしかありません。
ムカつくビッチ女とつるんでいる女の子たちの時折見せるホンネとか、期待に応えられないバレー部員の自分自身への苛立ちとか、そういういちいち垣間見られる言葉にならない所作。
これが見ている我々に臨場感というか、自分もこの場で空気を察しなければならない気持ちになってしまいます。
こういう演出と演技によって、グイグイ映画に引き込まれました。

そして、ラストに向かって…。
前田が手にする8ミリカメラのフィルムに投影されるべきだった「ゾンビが世界をめちゃくちゃにする半径1メートルの"リアル"」。
もちろん、本当の"リアル"はそんなはずもなく、けっこう惨めだったりする。
それを冷静に分析してみせ「映画監督になんかなれるはずはない」と述懐する前田。
この映画にしては珍しく、登場人物が内面を自分の口で語っているようにも見えるシーンだけど。
8ミリカメラのレンズ越しにそれを見ている宏樹(桐島と並び立つ学内ヒエラルキーのトップに立つ男)は、自虐を口にする前田の姿に全く違うものを見ています。
ここで宏樹が何を見て、何を感じていたのかは、全く語られない上に映像でも映されていません。
でも「逆光だ(夕暮れの光を前田が背に負っている)」という前田のセリフや、引退後もドラフトで名前が呼ばれるのを待つ野球部の先輩を、遠くから眺める宏樹の姿によって「何か」が暗示されています。

この余韻を引くラストもすごく良かったです。
多くは語られないので推測するしかないのですが…。
オレなりに推測すると、何でもできちゃうから何にも本気になれず何者にもなれないでいた宏樹。
ヘタでグズで泥臭くても、自分がいるべき半径1メートルを持っている前田や野球部の先輩に、宏樹なりに心が突き動かされたんじゃないかな、と思ったりします。
とはいえ宏樹が野球部に戻ったのかどうかは、スタッフロールでも彼の所属部が空欄になっていることから、分からずじまいではあるんですが。
この空欄で終わるスタッフロールも含めて、なんか清々しい気持ちで終われるラストでした。

……でも正直言うと、宏樹の魂が救済された(救済される余地ができた)、この美しすぎる結末はイライラしたりもするんだけど。
武文曰く「(何でもできる格好いい彼らに)不毛なことをさせてやった」という下層高校生にとっては、映画やゲームのような熱くなれること=自分なりに有意義なことを持っていることこそが矜恃であったのに。
よりにもよって、すべてを持っているスーパーエリートの宏樹に、熱くなれるものを気付かせ、魂の救済に手を差し伸べてしまうなんて。
それじゃあオレのような、持たざる者の何を拠り所に生きていけばいいんだ、という怒りさえこみ上げますw

桐島、部活やめるってよ(映画館)
http://www.kirishima-movie.com/index.html
監督:吉田大八
出演:神木隆之介、橋本愛、東出昌大、他
点数:9点


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