それでは、Voigtländer SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 ASPHERICAL III E-Mount で撮影した作例を見ながら、
レンズの特性や建築撮影の方法、α7ボディのレンズ補正などについてみていきたいと思う。
主な被写体は以前紹介済みの姫路市網干区の建築群。
【コスモス】
(ノートリミング)
最短撮影距離(30cm)、絞り開放(F4.5)で撮影。15mm超広角レンズでも近接撮影なら背景がそこそこボケる。
【旧水井家住宅】
15mmレンズの超広角ゆえのパースペクティブ(遠近感)強調やアオリ効果を得るための撮影とトリミングについて。
(ノートリミング)
15mmの画角をすべて使ってしまうと、パースペクティブ(遠近感)が強調され過ぎる。この写真では左側門扉の遠近感が強すぎて形状の破綻が見られる。
シノゴで超広角47mmレンズが使いにくいのと同じだ。
もちろん、引いて撮影すると遠近感は弱くなる。
(ノートリミング)
上下が空き過ぎなのでパノラマサイズにトリミングした。シノゴカメラにジナーズームを付けて6x12で撮影するのと似ている。
(トリミング後)
次の画像は、15mmレンズなら真正面から全景が入るかと思ったが、引き場が足りなくて門扉と蔵は途中で切れてしまった。唯一10mmや12mmのレンズが欲しいと思う瞬間だ。
こちらは上下をトリミングした画像。
(トリミング後)
次に、左右にある門扉と蔵は遠近感が強調され歪んでしまったので、それぞれの正確な形をとらえるように撮影してみた。
まず、門扉から。
(トリミング後)
この写真は下のように門扉を中央に撮影してトリミングした。
これは、シノゴにジナーズームを付けて右へ大きくシフトアオリしたのと同じ効果だ。
(ノートリミング)
そして、蔵。
(トリミング後)
これは、左へ大きくシフトアオリしたのと同じ効果。
(ノートリミング)
門扉と蔵の形にこだわって撮影しても、ほぼ左右対称であるはずの母屋が大きく歪んでしまうので、この建築の撮影方法としては×。
※参考:実際にシノゴカメラの左シフト操作で撮影した例。母屋が歪みなく左右対称に描写されている。
【亀屋(川越市)】
・被写体全体の中央がどちらの建物の中央にもならない場合、そのまま撮影すると双方ともに形状が歪んで描写されてしまう。
・どちらか一方の建築を歪みなく撮影することは出来るが、比率が大きい方(2/3以上が好ましい)の建物を選んで補正すると良い。
・小さい方の建物を選ぶと、先例の【旧水井家住宅】のように大きい方の建物の歪みが大きくなり過ぎる。
【2019.3.30追加】
姫路城大天守と小天守を正面からとらえる場合も同じことがいえる。
(トリミング後)
大天守が正確に左右対称で描写されている。
(トリミング前)
撮影時の中央を大天守の中央に合わせて撮影したものをトリミングした。
そして、トリミング前提で周囲を広く撮影すると構図の自由度も増す。例えば正方形にもトリミングできる。
次は、6x12風のパノラマサイズにトリミングした写真を2枚。
【山本家住宅】
(トリミング後)
このくらいの遠近感が最もカッコ良く見える。
【山本家住宅と西側の町家】
(トリミング後)
超広角15mmのパノラマ効果は大きい。
【旧龍野藩南組大庄屋 片岡家】
同じ立ち位置から撮影してトリミングした写真2枚。
1枚目。
(トリミング後)
2枚目は遠近感が強い。
(トリミング後)
それぞれのトリミング前の画像。
1枚目。
(ノートリミング)
2枚目。
(ノートリミング)
同じ立ち位置でカメラを左右に振って遠近感をコントロールしている。ファインダーを覗きながら好みの遠近感を探ることもできる。
ただし、元画像の左右中央からズレたトリミングをするとシフトアオリをしたのと同じことになり、遠近感が狂う場合がある。
シフトアオリ効果を狙わないのであれば中央からズレたトリミングをしない方が良い。
今回の撮影ではあまり意識していなかったが、撮影時にトリミングの範囲を決めて、それが画面の左右中央になるように撮影するべきであろう。
そのうえで、塔の歪みを補正するなどのシフトアオリ効果を狙う場合のみ被写体を中央からずらして撮影する。
そうしないと、正しい遠近感の写真にならない。塔の歪みを補正するシフトアオリは塔以外の部分の遠近感を狂わせているのである。
【カナイ(旧金井時計店)】
建築の真正面写真の撮影について。
建築正面に対して水平垂直、中央をきっちり出して撮影するが、しかし・・・
(ノートリミング)
引きのない狭い道路のため建築上部が切れ、向かい側店舗の雨樋が写り込んでいる。
仕方ないので、少しだけカメラを上に見上げたうえで、雨樋をやり過ごすために撮影位置を右に移動。
(ノートリミング)
ほんの少し上すぼみになっている。
撮影の中央線がズレたので正確には左右対称に描写出来ていないのだが、
ズレ幅が小さく建築表面の凹凸も少ないのでほとんど気にならない。
もし、建築中央に玄関ポーチか大きな庇でも有れば、歪みが気になったかもしれない。
(トリミング後)
ほんの少しだが上すぼみになっているのが分かる。気になる場合はShiftNで修正するしかない。
(ShiftN使用・ノートリミング)
(ShiftN使用・トリミング後)
ShiftNによる補正はほんの僅かで、かえって形が狂うということは無いと思うが、
デジタル補正はなるべく使わない方が良いと思う。
【網干商工会館】
(トリミング後)
適度な遠近感のある自然な描写。
元画像は、素直に画面中央に被写体を置いたもの。中央に置けば自然な描写になるということだ。
(ノートリミング)
次に、真正面から撮影しようとしたがレンズに逆光の西日が入るので日陰に移動して撮影。
(ノートリミング)
これも【旧水井家住宅】の「大きく左シフト」と同じ方法だ。
(トリミング後)
真正面から写した画像を得たつもりが、玄関ポーチが大きく左方向に歪んでしまった。
ここまで違和感があると、シフトアオリで遠近感が狂うことが良く分かる。
【カナイ(旧金井時計店)】の撮影で
「建築中央に玄関ポーチか大きな庇でも有れば、歪みが気になったかもしれない」
と書いたのはこのことである。
建築撮影で最も重要なのは撮影時の中央をどこに置くか、ということだと思う。
西日の無い午前中に再撮影したが・・
(ノートリミング)
そもそも建築中央では引きが足りなかったのでこれで限界。これ以上中央に寄ると、上部が切れてしまう。
(トリミング後)
玄関ポーチの庇が左向きに歪んでいるのが分かる。ちなみに、2階上の庇の歪みは建築自体の歪み。
【旧赤穂塩務局網干出張所 塩倉庫】
逆光だとハレーションを起こしたりフレアが出たりするが、これは対処の一例。
(ノートリミング)
シノゴの場合、低めの三脚に据えて自分の影をレンズに被せるという裏技を紹介したことがあるが、
手持ちの場合は、左手を上げたらハレ切り代わりになることがある。
写真のように左側半逆光の場合しか使えないし、片手シャッターで手ぶれの危険もあるので、
あまり良い方法とは言えないが、苦し紛れの対応としてよくやっている。
「左手ハレ切り」対応後の画像。
(トリミング後)
【古い町家】
旧網干銀行本店の近くにある、虫籠窓に太格子と細格子の組み合わせが美しい町家。
江戸から明治初期にかけての建築だと思うが、姫路市史の文化財編やネット上にも載っていないので詳細は不明。
この建築でα7ボディのレンズ補正テスト撮影をした。
1.「周辺光量補正」「倍率色収差補正」効果確認。
a.レンズ補正全てOFF 絞りF4.5
(ノートリミング)
(左上拡大)
ほんの少しの周辺光量落ちと、鬼瓦と空の境目にほんの少し赤く色収差が見られる。
b.「周辺光量補正」「倍率色収差補正」ON 絞りF4.5
(ノートリミング)
(左上拡大)
周辺光量、色収差ともに改善されている。
2.「歪曲収差補正」効果確認。
a.レンズ補正全てOFF 絞りF4.5
(ノートリミング)
b.レンズ補正全てON 絞りF4.5
(ノートリミング)
元々歪曲収差を徹底排除したレンズなので、補正前後の差は全く分からなかった。四隅に直線を置くように撮影すれば差が出るかもしれない。
「歪曲収差補正」はOFFで良いだろう。
3.四隅の画像乱れの改善確認
a.レンズ補正全てOFF 絞りF4.5
(左下拡大)
b.レンズ補正全てOFF 絞りF22
(左下拡大)
c.レンズ補正全てON 絞りF22
(左下拡大)
絞ると改善されるようである。
α7ボディのレンズ補正では、
「周辺光量補正」がよく効いているのは確認できたが、
画像乱れについては効いているかどうか、よく分からなかった。
次は、「直線を直線として写し取るレンズ」の実力を見るため、
殆ど直線で構成されている日本家屋の屋内を撮影してみた。
【稲香村舎 誠塾】
(【稲香村舎 誠塾】の写真は全てトリミング後)
直線が真っ直ぐに気持ちよく描写されている。
建築写真用レンズとして申し分ないと思う。
最後に、ピントを30cmに固定して、絞りF8-11に絞り込んで猫をノーフレーム撮影してみた。
(猫の写真はすべてノートリミング)
興味を持って近づいて来てくれたが、近すぎだ。
ノーフレーム撮影でも画角が広いので猫がフレーム外になることはなかった。
被写界深度が深いので、猫がいる範囲にはほぼ合焦していた。
このレンズを使った感想は「本当に素晴らしい」の一言に尽きる。
初めてシノゴで撮影した時以来の感動だった。
表題写真は【稲香村舎 誠塾】室内画像(ノートリミング)。
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