本日の美術展レビューは、豊田市美術館で開催中の「ゲルハルト・リヒーター」展です。
よほどの美術ファンでない限りゲルハルト・リヒターを知る人はいないかと思います。先ずはゲルハルト・リヒターについて紹介したいと思います。
ゲルハルト・リヒターはドイツ東部ドレスデン出身の現代美術家で、ベルリンの壁による東西分断の前に西ドイツに移住し60年に及ぶ芸術活動を行い90歳にしてドイツ最高峰の画家であり、おそらくは、現存する画家の中でも世界最高峰の画家だと思います。
また、2012年にエリック・クラプトンが所有していた抽象画がサザビーズのオークションで生存する画家としては史上最高額で落札されたことで知られ広く一般にも認知されたのではと思います。
今回の展覧会は、東京国立近代美術館からの巡回展で豊田市美術館での展覧会で1月29日まで開催され最後となります。おそらくは今回の展覧会がリヒターの全貌を知ることができる重要な展覧会ではないでしょうか。
展覧会場は、制作年から順に並べられ、1階から3階、4階の展示スペースにより構成されています。1階では雑誌や家族の写真を撮影した写真をキャンパスに正確に写し取りフォーカスを取り入れた「フォトペインティング」の技法を用いた初期作品から始まり、キャンパスをグレイに塗りつぶした「グレイペインティング」やガラスと鏡などの抽象的な作品や古典的にはモチーフを用いた作品や家族の肖像画などの写実的な表現でありながら心理的な意味合いを持つ作品などリヒターの多彩な表現活動が紹介されています。
今回のリヒター独自の表現方法の中で突出しているのは、キャンパスに絵具をまき散らしたような「アブストラクト・ペインティング」でしょう。様々な色の絵具をキャンパスの中で自在に動き出す世界は、まさに抽象的なものそのものです。ひとつとして同じものがなく展示された抽象画の作品は未だ見ることのない小宇宙のように感じます。
現代美術家のなかで多彩な表現力と思想性を持った画家はゲルハルト・リヒター以外に存在しないと思います。多様な絵画表現を体験するだけでも必見の価値があり、豊田市美術館の展示に最もふさわしい現代の巨匠・ゲルハルト・リヒターの世界を体現してみてください。