映画館で観れなかった作品をDVDで観るシリーズ。今回は数々の国際映画祭で大反響を得た映画「CUT」です。
イラン人監督のアミール・ナデルと日本人キャスト、スタッフの協力で完成した奇想天外なヒューマンドラマです。
物語は兄の支援を得て、映画を撮る主人公は、内外の名匠の映画をこよなく愛し、自主上映会を開き、路上で娯楽映画を批判しながら、映画の芸術性を訴え演説を繰り返す日々を過ごしている。そんなか、ヤクザの兄が残した映画資金のための借金を返済するために、ヤクザたちの殴られ屋になることを決意する。
主演の西島秀俊が殴られるシーンが大半を占める単純なストーリー。しかし、そのシーンが壮絶かつ鬼気迫るもので、殴る者たちも、殴られる彼も変化していく。特殊メイクによりゆがんだ顔や肉体。ボロボロになった体を慰め、明日に向かう力を得るように、名匠の作品の中で身を横たえ、墓所に祈りを捧げる。静と動が交錯する日々が詩的で美しい。
不条理な世界で、兄が死んだトイレを戦場として生き続けようとする主人公の強固な意志と愛するもののために命を賭して闘う、崇高な美しさえも感じる作品でした。
戦いを終えた男が出した結論にも注目して観てもらいたい映画です。