『モモ』p.46~ 四章 無口なおじいさんとおしゃべりな若もの
どんなにたくさん友だちがいても、たいていの場合、その中にはとくべつに好きな親友というものがひとりかふたりはあるものです。モモの場合もそうでした。
モモには親友がふたりいて、その人たちは毎日やってきては、持っているものはなんであれ、すべてモモと分けあいました。ひとりは若もの、もうひとりは年よりです。どっちのほうがよけい好きかは、モモにも言えないほどでした。
おじいさんの名前は、道路掃除夫ベッポです。ほんとうはちゃんとした苗字があるのでしょうが、職業が道路掃除夫で、みんなはそれを苗字がわりに呼ぶものですから、おじいさんはじぶんでもそう名のることにしていました。
道路掃除夫ベッポは円形劇場のちかくの小屋に住んでいました。れんがとブリキ板と屋根ふき紙とで、じぶんでたてた小屋です。ベッポはなみはずれて小柄なうえに、いつもすこし背中をまるめているので、モモとたいしてかわらない背たけに見えます。大きな頭はいつもすこしかしいでいて、みじかい白い髪がつったつようにはえています。鼻には小さなめがねをかけています。
道路掃除夫ベッポは頭がすこしおかしいんじゃないかと考えている人がおおぜいいるのですが、それというのは、彼はなにかきかれても、ただニコニコと笑うばかりで返事をしないからなのです。彼は質問をじっくりと考えるのです。そしてこたえるまでもないと思うと、だまっています。でもこたえが必要なときには、どうこたえるべきか、時間をかけて考えます。そしてたいていは二時間も、ときにはまる一日考えてから、やおら返事をします。でもそのときにはもちろんあいては、じぶんがなにをきいたかわすれてしまっていますから、ベッポのことばに首をかしげて、おかしなやつだと思ってしまうのです。
でもモモだけはいつまででもベッポの返事を待ちましたし、彼の言うことがよく理解できました。こんなに時間がかかるのは、彼がけっしてまちがったことを言うまいとしているからだと、知っていたからです。彼の考えでは、世の中の不幸というものはすべて、みんながやたらとうそをつくことから生まれている、それもわざとついたうそばかりではない、せっかちすぎたり、正しくものを見きわめずにうっかり口にしたりするうそのせいなのだ、というのです。
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