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 英国の飛び地ジブラルタル欧州の領有権問題

2013-09-15 15:18:06 | レポート2
世界トップクラス

 ロンドンから直行便で約3時間。スペインとの国境に面してつくられた真新しい国際空港に到着し街に出たが、商店はすべてシャッターが下り、人通りがない。まるで死んだ街のようだった。

 緊張再燃で「住民は避難したのか」と思いきや、週末は多くの人が国境を越え、お隣のスペインにある別宅で過ごすため、約3万の人口が減少するのだという。記者が到着したのは日曜日。翌朝、人々は街に戻り、安い酒やタバコ、香水などの免税品を求める観光客らで通りはごった返していた。

 ジブラルタル自治政府によると、ジブラルタルはマイナス成長に苦しむスペインとは対照的に、年率7~8%の経済成長を20年以上続けている。住民1人当たりの国内総生産(GDP)は今や世界トップクラス。港には、豪華客船やヨットが停泊し、レストランや高級ホテルが立ち並ぶ。

自治政府は3年前、一律10%の法人税を導入した。スペインの30%、英国の23%より大幅に低い法人税率を武器に、観光や金融に加え、保険やオンライン・ギャンブルなど企業の誘致に成功し、新規雇用を生んで成長につなげた。

 失業率は、隣のスペイン・アンダルシア州の36%に対してわずか2・5%。毎日約1万人のスペイン人が国境を越え、“出稼ぎ”にやってくる。

 「スペインは、われわれの成功と繁栄に嫉妬しているのさ」。住民の一人は、こう説明した。

 ■言葉による戦争

 スペインは、ジブラルタルがスペイン企業の租税回避地(タックスヘイブン)になっていると非難する。だが、自治政府側は「欧州連合(EU)の規則は順守している。われわれは租税回避地ではない」と反論して批判を一蹴した。

 不満を募らせ続けていたスペインは7月末、自治政府が空港沖で海底岩礁の建設に着手したことを、「スペイン漁船への妨害」として、ジブラルタルとの国境検問強化に踏み切った。

 さらにスペイン側が、「国境の封鎖や通行税の導入、上空の飛行禁止を検討中だ」と強硬姿勢を示したのに対し、英国側も「スペインに法的措置をとる」と応酬して言葉による“戦争”に発展。「(南半球の)英領フォークランド諸島の領有権を主張するアルゼンチンと同様、一層の関係悪化が懸念される事態」(英紙)となっている。

 地元紙ジブラルタル・クロニクルによると、苦境にあるスペインでは、ジブラルタルで買った免税たばこを高く売り、利ざやを稼ぐ“闇ビジネス”も登場した。

 同紙のシアル編集長(53)は「一連のジブラルタルへの圧力は、スペイン政府が経済の失政や汚職疑惑を国民の目からそらし挽回を図るために行われている」と指摘。「最終的には英国、スペイン、EU、自治政府の4者協議を再開させ、自治政府の自決権を骨抜きにするのが狙いだ」との見方を示した。

 ■難攻不落の要塞

 シアル編集長は「この4~5年が重要だ。英国が将来、国民投票を行い、EU脱退を決めたら、スペインが国境を閉鎖する可能性は高い」と述べ、「歴史をみれば、最後は話し合いになり、現状維持となるだろう」と予測した。

 東京都豊島区の半分ほどの広さしかないジブラルタルだが、英国はスペインなどからの度重なる戦争や封鎖を退けてきた。

 スペインとフランスが1779年に英国からの奪取をもくろみ包囲したが、失敗。ジブラルタルは4年近い包囲戦を耐え抜いて「難攻不落の要塞」としての名を世界にとどろかせることになった。

 その際、籠城に使われたのが「ザ・ロック」と呼ばれる岩山だ。無数のトンネルが掘られて抵抗のシンボルとなったその岩山は、いまでは観光名所となっていた。斜面に切り開かれた狭い道をタクシーでのぼると、ジブラルタル海峡の向こうにアフリカ大陸が望めた。

 「スペインは(同国の独裁者)フランコのような手口で攻めているが、EUから制裁を受けることになるだろう。それでもやる気なら、また守り抜くだけ。スペインに勝ち目はないよ」。ジブラルタル生まれのタクシー運転手兼ガイド、スチュワートさん(35)はこう言って笑った。

 ■欧州の領有権問題最前線

 「アフリカ大陸のジブラルタル」-。そう呼ばれているのがジブラルタルの対岸にあるスペインの飛び地セウタだ。モロッコが返還を求めているが、スペインは固有の領土だとして応じていない。こちらの係争地も、ジブラルタルと同様に免税措置で繁栄を享受していた。

 スペイン南部の港からフェリーで1時間。人口8万のセウタにはヤシの木が茂り、スペイン風の美しい街並みが広がっていた。旅行代理店のスペイン人男性従業員は「ここは欧州への窓口。領土問題など存在しない」と断言した。

 だが、モロッコとの国境には、監視カメラと鉄条網が巻かれた高さ約3メートルの鉄製柵が設置され、物々しい。違法移民や麻薬の流入を監視するためだが、形だけの国境しかないジブラルタルとは大違いだ。

 ■ジブラルタル 英国の海外領土。1713年のユトレヒト条約でスペインから英国統治となって以降、地中海と大西洋を結ぶ戦略的要衝として、七つの海を支配した大英帝国繁栄の礎となった。現在も英軍が駐屯。2回の住民投票で90%以上が英国への帰属を支持。英語とスペイン語が共通語。通貨はジブラルタル・ポンド(英ポンドに相当)。


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