朱氏はこれまで頻繁に日本メディアに登場し、沖縄県・尖閣諸島などをめぐる中国政府の公式見解を主張することで知られていた。昨年末までは「日本華人教授会議」の初代代表も務め、日本国内で中国の正当性を宣伝する“広告塔”といえる存在だった。
そんな朱氏が突然消えたのが、7月17日に故郷の上海市を訪れた直後。産経新聞は9月27日、朱氏が「日本での講演や執筆活動の中で知らずに国家秘密を漏らしたかもしれない。故意ではなかった」と供述していると報じた。同省は「防諜」(=他国のスパイ活動の監視・摘発)を主任務とする、中国の情報機関である。
朱氏が拘束されたのは、秘密資料を公表したからなのか。
中国政府は「中国は法治国家であり、中国国民の合法的な権益を保護する。国民も法規を順守しなければならない」(洪磊・外務省副報道局長)と述べるだけだ。
現時点で、(1)日本の政府機関から資金援助を受けた見返りに、中国の機密情報を提供した疑いをかけられた(2)元人民日報東京支局長らとともに「再教育」を受けている(3)日本華人教授会議の代表を約9年間も務めたことで同僚研究者から嫉妬を買い、事実無根の密告をされた-といった複数の説も流れており、真相は定かではない。
こうしたなか、日本政府関係者の間でささやかれているのが、中国共産党内の権力闘争の余波として、朱氏の拘束を捉える見方だ。
対中外交に長年携わった外交当局者は「朱氏は、江沢民氏の秘書と関係が深い。習執行部は、江人脈をたたくことで上海閥を牽制し、あわよくばスキャンダルをあぶり出そうとしているのではないか」と指摘する。
別の日中関係筋も「朱氏と江氏の秘書が近しい関係にあることは有名な話だ」と証言する。
中国共産党は、江氏が君臨する上海閥のほか、習氏が属する高級幹部子弟の「太子党」、胡錦濤前国家主席が力を持つ共産主義青年団(共青団)出身者の3大勢力で占められている。
習氏の太子党は上海閥に近いが、現在も隠然たる影響力を保つ江氏は「目の上のたんこぶ」ともいえる。
外交評論家の石平氏は「習氏は、江人脈の後押しで今の立場に就いたが、胡前主席は江氏の力に抑えられて実権が握れなかった。江氏を乗り越えなければ、習氏はいつまでも自前の政権ができない」と解説する。
習政権下では先日、太子党出身で江氏の後ろ盾を持つ、元重慶市党書記の薄煕来被告が、収賄罪で無期懲役の有罪判決を受けたばかり。同じく、江氏に近く、石油利権を牛耳ってきた周永康・前政治局常務委員についても、香港紙が「共産党が隠し資産の調査を行っている」と報じており、江人脈がターゲットになっている。
一方で、習氏は上海閥出身者を次々と党中央の要職に起用している。
前出の石平氏は「習氏は、上海閥を江氏から乗っ取り、世代交代させることで、石油などさまざまな利権を手にすることもできる」と分析する。
習氏の基盤固めは、11月に行われる党中央委員会第3回全体会議(3中全会)までをメドにしているとみられるが、日本外務省幹部は「3中全会に間に合わず、朱氏の拘束が長引く可能性もある」と指摘する。
つまり、習体制が脆弱性を解消できたかどうかは、朱氏が解放される時期がバロメーターになるというわけだ。こうした国内不安を抱える習政権にとって、尖閣諸島などで日本に弱腰な態度を示せば、政権基盤を危うくしかねない。
安倍政権としては、日中首脳会談の実現を焦らず、中国の権力闘争の行方をじっくりと見極めることが肝要のようだ。
そんな朱氏が突然消えたのが、7月17日に故郷の上海市を訪れた直後。産経新聞は9月27日、朱氏が「日本での講演や執筆活動の中で知らずに国家秘密を漏らしたかもしれない。故意ではなかった」と供述していると報じた。同省は「防諜」(=他国のスパイ活動の監視・摘発)を主任務とする、中国の情報機関である。
朱氏が拘束されたのは、秘密資料を公表したからなのか。
中国政府は「中国は法治国家であり、中国国民の合法的な権益を保護する。国民も法規を順守しなければならない」(洪磊・外務省副報道局長)と述べるだけだ。
現時点で、(1)日本の政府機関から資金援助を受けた見返りに、中国の機密情報を提供した疑いをかけられた(2)元人民日報東京支局長らとともに「再教育」を受けている(3)日本華人教授会議の代表を約9年間も務めたことで同僚研究者から嫉妬を買い、事実無根の密告をされた-といった複数の説も流れており、真相は定かではない。
こうしたなか、日本政府関係者の間でささやかれているのが、中国共産党内の権力闘争の余波として、朱氏の拘束を捉える見方だ。
対中外交に長年携わった外交当局者は「朱氏は、江沢民氏の秘書と関係が深い。習執行部は、江人脈をたたくことで上海閥を牽制し、あわよくばスキャンダルをあぶり出そうとしているのではないか」と指摘する。
別の日中関係筋も「朱氏と江氏の秘書が近しい関係にあることは有名な話だ」と証言する。
中国共産党は、江氏が君臨する上海閥のほか、習氏が属する高級幹部子弟の「太子党」、胡錦濤前国家主席が力を持つ共産主義青年団(共青団)出身者の3大勢力で占められている。
習氏の太子党は上海閥に近いが、現在も隠然たる影響力を保つ江氏は「目の上のたんこぶ」ともいえる。
外交評論家の石平氏は「習氏は、江人脈の後押しで今の立場に就いたが、胡前主席は江氏の力に抑えられて実権が握れなかった。江氏を乗り越えなければ、習氏はいつまでも自前の政権ができない」と解説する。
習政権下では先日、太子党出身で江氏の後ろ盾を持つ、元重慶市党書記の薄煕来被告が、収賄罪で無期懲役の有罪判決を受けたばかり。同じく、江氏に近く、石油利権を牛耳ってきた周永康・前政治局常務委員についても、香港紙が「共産党が隠し資産の調査を行っている」と報じており、江人脈がターゲットになっている。
一方で、習氏は上海閥出身者を次々と党中央の要職に起用している。
前出の石平氏は「習氏は、上海閥を江氏から乗っ取り、世代交代させることで、石油などさまざまな利権を手にすることもできる」と分析する。
習氏の基盤固めは、11月に行われる党中央委員会第3回全体会議(3中全会)までをメドにしているとみられるが、日本外務省幹部は「3中全会に間に合わず、朱氏の拘束が長引く可能性もある」と指摘する。
つまり、習体制が脆弱性を解消できたかどうかは、朱氏が解放される時期がバロメーターになるというわけだ。こうした国内不安を抱える習政権にとって、尖閣諸島などで日本に弱腰な態度を示せば、政権基盤を危うくしかねない。
安倍政権としては、日中首脳会談の実現を焦らず、中国の権力闘争の行方をじっくりと見極めることが肝要のようだ。