「何でサッカー部の部活説明会はないんですか?」
聞かれた先生は明らかに困っていた。
「うちにサッカー部はないですよ」
今も忘れることが出来ないくらいショックだった。
サッカー部がない?中学のサッカー部の顧問の先生は市内の高校ならどこでもサッカー部はあるって言ったのに?
ほんとにあるか確かめたかったからこの学校に通っている友達の姉ちゃんに聞いたら、普通に放課後毎日グラウンドでボール蹴ってるよって聞いたのに?
頭が真っ白になるどころか、先生からこの学校にサッカー部がないと聞いた瞬間からどうしようとかの考えは一切なく頭に真っ先に浮かんだのはこの学校からサッカー部のある高校へ転校しようだった。
その日のうちに親に真剣に転校させてくれと訴えたがもちろんそれは却下された。
転校出来ないなら自分でサッカー部を立ち上げるしかない!
そう思い翌日には学校の先生にも相談したが、昨年男子バスケットボール部が出来たばかりだからこれ以上は増やせないと却下された。
だったらどうしたらいい?どうすればいい?
夢にまで見た高校サッカーはどうやったら始めることが出来る?
入学したらすぐにでも本格的に高校サッカーを出来るようにと冬場の受験シーズン中にも欠かさずランニングと筋トレは行っていた。
特に筋トレには力をいれた。
体格差を埋めるためには当たり負けない体を作るしかない。
体全体にバランス良く筋肉をつける。
自分なりに色々考えながらトレーニングを行った。
それなのに。。何のための準備だったのだろう。
この時の数日間は本気で落ち込んだし学校も辞めたくて仕方なかった。
今みたいにネットが普及している時代でもなかったため解決策を見つけだすことすら難しかった。
そんな時期にも関わらずこの高校には時代遅れのような決まりがあった。
入学したら必ずどこかの部活に入部しなくてはならない。
この当時ですら古くさいルールだと思っていたが、今もそのルールは変わってないらしい。
時代と共に変わることが当たり前の世の中である意味貴重だ。
ただ入部するといっても、一番やりたい競技がない中入部しろと言われても僕としてはほんとに困った。
適当にあまり活動していない文化部に入部することも考えたがそれはやめた。
サッカーは必ずやる!
だからせめて運動部に入部してその部活をトレーニングとして割りきるしかない。
最初はそんな気持ちで運動部への入部を決めた。
選んだ部活は去年から新設されたというバスケットボール部にした。
元々中学の時にバスケ部の友達が多くいたからか学校でバスケットをすることも多かった。
サッカーの次と考えたらバスケット。
これしかないと思った。
そして僕はバスケットボール部に入部したわけだが、まさかこの時ほんとにたまたま入部したバスケットのおかげで今に繋がってくるとは思ってもいなかった。
後から知ったことだったが、毎日のようにグラウンドでサッカーをやっていたのはこのバスケ部だった。
体育館が使えない日に冬場などに体を暖めるためにサッカーをして体を暖めてからバスケットの練習をしていたらしい。
友達の姉ちゃんはそのサッカーを見ていたのだった。
ほんとに紛らわしい。。
こうして入学2日目に絶望を味わい高校サッカーを諦めることになり、これからどうサッカーに関わろうか。
そう途方にくれた日々が少しの間続くこととなった。
「商業にサッカー部がなかった?それはまじで知らんかった。悪かった」
どうしても納得がいかず僕は中学のサッカー部の顧問の先生の元を訪ねた。
ほんとに申し訳なさそうな顔をしていたが、自分からしたら先生からの一言がなければ今ごろは工業高校に行ってサッカー部に入部しサッカーを始めていた。
確かに先生の言うように1年生から試合に出るのは難しかったかもしれないが、それでも高校サッカーじたいは続けていくことは出来るためきっとレギュラーになるために必死に練習していたと思う。
そう考えると悔しくてしかたなかった。
それでもこのサッカー部の顧問の先生は僕がどれだけサッカーを好きでいたかをよく知っていた。
まだまだ素人同然だった中1の頃にも自主練しているところを偶然見られ一人でも出来る練習メニューをアドバイスしてくれたこともあった。
主力として頑張っていた中3の時には毎試合ごとにアイシングを手伝ってくれ膝を労ってもくれた。
だから顧問の先生としては厳しく怖くもあったが、サッカーに打ちこませてくれたことに関しては感謝しかなかった。
先生の元を訪ねたのはもちろんサッカー部がなかったことを伝えたかったからだが、責めるような言い方など最初からするつもりはなく軽い感じでサッカー部がなかったことを伝えたつもりだった。
それでも先生は色々と思うことがあったのか、一度その場を離れどこかにいき少ししてから戻ってきて僕にこう言った。
「うちのチームにくるか?」
どうやら一度その場を離れた時に先生が所属している社会人のサッカーチームのメンバーに連絡をとってくれたらしい。
まさかの誘いに驚いたが、サッカーをやれる環境が全く思い浮かばなかった僕からしたらありがたい誘いで迷う理由すらなかった。
「いいの?」
「全然かまわん。今許可もとったし。」
「じゃあやりたいです!」
「分かった。伝えとく。でもな、うちのチームは強いから大変だぞ?」
先生が社会人チームに所属していることは中学の頃から知っていた。
そのチームが変わったチームであることも知っていた。
噂ではかなり強いという話も聞いていた。
それでもどんなチームでどんな人がいるとかはまるで分からない。
それでも迷うことなく誘ってくれたことに乗ったのは今すぐまたサッカーがしたいから。
それだけだった。
こうして高校サッカーを経験することは出来なかったが、いきなり社会人サッカーでのデビューすることが決まった。
続