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なんでも飲み込んでしまうマイナンバー

2024-05-09 21:10:34 | ニュース
なんでも飲み込んでしまうマイナンバー。「肥大化」の行き着く先は? Photo:PIXTA© ダイヤモンド・オンライン

国民無視、すべて飲み込んで

肥大化するマイナンバー計画

 マイナンバーの肥大化が止まりません。もともと私は、国民総背番号制度ともいうべきマイナンバー制度に賛成でした。米国の社会保証ナンバーのように9ケタの数字をデジタル化して一元化しておけば、コロナ禍のときの給付金のように、国民にすぐに金銭的援助ができると思ったからです。

 しかし日本の場合、米国のように戸籍などを設けず社会保障ナンバーに一本化する方向ではなく、住民票も戸籍もすべて残して、さらにマイナンバー制度を加えたあげく、銀行口座や年金の受給口座など色々な個人情報にまで紐づけようという、複雑な制度に変化してしまいました。

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 もっとも、マイナンバーカードの普及は進んでいるとはいえません。国民全体でカードを持っている人は、3月末の時点で74%です。4分の1の国民がまだ持っていないことになります。私はこの状況に対して、国民がマイナンバーになぜ積極的ではないのか、ひとつの仮説を立て、連載記事「デジタル庁より『デジタル監視庁』を創設せよ」でその解決方法を提唱しました。国民が、政府の個人情報保護に対する責任感についてまったく信用していないから、マイナンバーを取得しないのだと。

 実際、今まで個人情報が流出しても、政府の要人は誰も責任をとったことがありません。処罰されたのは個人情報の処理を託された無名の業者ばかりです。 役所から預かったCDを初期化せず、そのまま中国に売りさばいていた業者さえいました。この業者は当然ながら罰せられましたが、この業者を選定した役人、おそらく利権絡みで役人にこの業者を推薦した政治家まで捜査が及ぶことはなく、権限を持つ人間がまったく責任をとらないまま、多数の国民の個人情報は中国に流出してしまったのです。

 私がデジタル監視庁の創設を訴えたのは、そういう理由からです。個人情報の流出は、時に大変な損害を国民に与えます。こんなずさんな業者選定を許し、関係責任者が罰せられないのであれば、国民は絶対にマイナンバーを信用しません。独立した捜査権を持つ監視庁を設立すれば、今問題になっているSNS型投資詐欺なども技術捜査力のある捜査陣が捜査し、もっと厳しい要求を海外のプラットフォーマー(メタやエックスなど)に要求し、また国内で厳しく立法化することも可能なはずだからです。

 現にEUは厳しくプラットフォーマーに対応する罰金や法律を検討しています。日本政府はただでさえ、米国に弱腰で中国にもモノが言えないのに、捜査権のない丸腰のデジタル庁では何の頼りにもなりません。

 私だけでなく多くの識者が疑問を持っているにも関わらず、国民を無視して、マイナンバー計画は肥大化し続けています。

 まずは健康保険証と紐づけるということが決まりました。しかも、最初は任意としていたはずが、いつのまにか年内までに義務づけることになりました。12月2日から現行の健康保険証を新規発行しないと決め、マイナンバーカードの保険証利用を強力にプッシュするのです。メリットとしては、特定健診や薬の情報をマイナポータルで閲覧できたり、正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられたり、限度額以上の医療費の一時払いが不要になったりするといった甘い言葉が並べられています。

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 しかし、直近3月のマイナ保険証利用率は5.47%にすぎません。国民の9割超は従来の保険証を利用しているのです。私の通うクリニックでも、マイナ保険証の使用を進めようともしていません。12月に現行の保険証の新規発行が終了するものの、マイナ保険証を持たない人には「資格確認書」が発行されます。そのコストも考えれば、血税の使い方として他に方法やタイミングがなかったのか疑問に感じます。

 また、福岡県歯科保険医協会(福岡市)が実施したアンケート調査によれば、マイナ保険証の受付システムを導入した歯科医院の7割が「トラブルがあった」と回答しています。保険者の情報が正しく反映されなかったり、カードが読み取れなかったりするトラブルが相次ぎ、中には他人の情報に「紐付け」されていたといった問題も発覚しました。

 それなのに、保険証だけでなく、4月1日から預貯金口座のマイナンバー(個人番号)付番がスタートしました。国が災害発生の際や相続時の利便性をメリットに挙げる制度なのですが、自分の財産が「丸裸」にされると不安視する人は大勢います。マイナンバーとの紐付けは義務ではないものの、金融機関は口座開設などの際に届け出を必ず確認してきます。この制度は、国から十分に周知されないまま開始され、金融機関からのお知らせにドキッとする人も多いことだと思います。しっかりと制度を理解した上で口座との紐付け管理を考えるべきでしょう。

年金受給者の口座情報まで

マイナンバーに紐づけされる

 5月27日には年金受給者の口座情報とマイナンバーも国に登録されることになりますが、「自分の資産が監視されるのではないか」といった不安を持つ国民も多いでしょう。登録は義務ではないのですが、対象者は日本年金機構からの書留郵便による通知後、一定の期限までに登録の有無を回答しなければ、自動的に「同意」したと扱われます。これでは、あまり事情を知らないお年寄りには、「強制」と変わりません。

 政府は「口座残高や取引履歴を把握することは絶対ない」と説明しています。しかし、現にマイナンバー制度のトラブルはスタートしてかなりの月日が経つのに、全然減りません。
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 マイナンバーカードを使ったコンビニでの証明書の交付システムで、別人の書類が発行されるトラブルが新たに確認されました。マイナンバーカードを使ってコンビニエンスストアで住民票の写しなどを交付するサービスをめぐっては、去年、別人の書類が発行されるトラブルが相次ぎ、システムを運営する富士通の子会社は再発防止策をとったと説明していましたが、今月、新たに高松市でトラブルが確認され、総務省は富士通に行政指導を行いました。

 これについて松本総務大臣は、閣議後の記者会見で「再発防止策を着実に実行するとしていたのに、修正プログラムの適用漏れなどによって誤交付が発生した。率直に申し上げてがく然とし、極めて残念だ」と強く批判しました。その上で「信頼回復につながる実効性ある再発防止対策を来月15日までに報告するよう求めているが、不十分な場合には、追加的な対策を求めることもある」と述べました。

 さらに「マイナンバーカードを活用することで自治体の業務改革なども進めてきている。我々としても、国民の制度への理解が深まるように取り組んでいきたい」とまで豪語しています。なんだか、すべて富士通のせいにされています。
 マイナンバーカードが利便性を向上させるのは間違いないと思います。本人確認が1枚で済む唯一のカードでもあります。証券口座などの開設やコンビニでの住民票、印鑑登録証明書の取得も可能です。
 それだけではありません。2023年6月9日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」によれば、政府は「運転免許証との一体化」「障害者手帳との連携の強化」「資格情報のデジタル化」「引越し手続きのデジタル化推進」「在外選挙人名簿登録申請のオンライン化」まで推進していく計画のようです。将来的には、マイナンバーカードの全機能をスマホに搭載できるようにしていく方針だといいます。
 しかし、これほど急速に、計画性もないまま、マイナンバーを肥大化させていいものでしょうか。

みずほどころではない巨大システム

悲惨な結果を生まないか

 太平洋戦争で、日本は兵站システムの破綻により餓死者や病死者を大量に出しました。日清、日露の戦争では、餓死者が出るような軍隊ではなかったのに、想定外の勢力範囲となる中国大陸と太平洋の島々という巨大な戦場には、従来の兵站組織では対応し切れなかったのです。失敗は認めずに「勝った勝った」で、あの戦争は突き進みました。

 そして、軍の暴走を監視するシステムもなくなってしまいました。みずほ銀行はもう随分前に興銀、富士銀、第一勧銀を統合し、システムを共通化しましたが、いまだにトラブルが続いています。

 マイナンバーカードシステムは、みずほ銀行どころではない巨大なシステムであり、いくつものシステムを統合して実行されます。構想時からどんどん肥大化し、さらに工期は限定され、予算が増えるというわけでもないシステム構築が、悲惨な結果を生まないことを祈るばかりです。
(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)



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