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札幌・円山生活日記

作家のパワー感じる紙や石膏で創造されたモノクロ世界の美術展~「札幌美術展 艾沢詳子 gathering―集積する時間」@「札幌芸術の森美術館」

「札幌芸術の森美術館」で開催中の「札幌美術展 艾沢詳子 gathering―集積する時間」。札幌市を拠点に活動する版画家・艾沢詳子(よもぎざわ しょうこ)氏の初期の具象的な銅版画から近年精力的に取り組むアートとテクノロジーが融合する新作を含むおよそ80点が展示されています。紙や石膏で創造されたモノクロ世界に常に現状を更新し新たな制作を続ける作家のパワーを感じます。会期は4月15日(土)~6月11日(日)の予定です。

本日は「札幌芸術の森美術館」で開催中の「札幌美術展 艾沢詳子 gathering―集積する時間」の鑑賞です。1月28日(土)から3月12日(日)まで開催されていた「札幌美術展 昨日の名残 明日の気配」鑑賞の際に前売りチケットを購入しました。アクセスは本日も地下鉄東西線「大通駅」で南北線に乗り換え、終着の「真駒内駅」から中央バス(空沼線・滝野線)に乗り「芸術の森入口」で下車です。

「札幌芸術の森美術館 」エントランス。
ロビーの美術展パネル。

「札幌美術展 艾沢詳子 gathering―集積する時間」のチラシ。 
 札幌市を拠点に活動する版画家・艾沢詳子は、銅版画からそのキャリアをスタートさせ、生命のありようをテーマとしたモノクロの世界を作り上げてきました。二度の渡米を経て、支持体に糸や紙などを貼りつけ凹凸のある版をつくりプリントする技法(コラグラフ)や、石膏や溶かした紙を用いた型取り(キャスティング)に取り組むなど、従来の版画のあり方にとらわれない、版の拡張ともいえる挑戦を続けます。やがて、それらは古紙やティッシュペーパーをロウで固めた人型のオブジェを無数に配置するインスタレーションの制作へと結実していきます。
 艾沢は一貫して、目には見えなくとも、確かにそこに在るものを表現してきました。日々の暮らしの中で抱く、言葉では捉えきれない感覚や印象は、時とともに消えてしまいます。しかし、艾沢はそれらをすくい取って自身の中に集積し、その輪郭を確かめるように形を与えていきます。立ち現れた光景には、艾沢がこれまで過ごしてきた親密な時間が息づき、観る者それぞれが抱く記憶をも想起させるでしょう。
 本展では初期の具象的な銅版画のほか、転機となった、床一面に広がる《石膏ドローイングインスタレーション》の再制作作品、近年精力的に取り組むアートとテクノロジーが融合する新作を含む約80点を展示します。常に現状を更新し、新たな制作を続ける作家の創造世界をお楽しみください。
艾沢詳子(1949~)YOMOGIZAWA Shoko.
 北海道夕張郡由仁町生まれ、札幌市在住。1970年代より版画家として活動を始める。これまで「版の沸騰」(INAXギャラリー、1997年)「交差する視点とかたち VOL.5」(札幌芸術の森美術館、北海道立釧路芸術館、2012年)などの個展・グループ展をはじめ、国際展にも積極的に参加している。1995年、アジアン・カルチュラル・カウンシルの奨学金により、ニューヨークで研修。2014年、北海道文化奨励賞受賞。

【集積する時間】
1970年代に版画家の渋谷栄一氏に私淑し銅版画からそのキャリアを開始しノスタルジックな具象的作品を制作していた艾沢氏の転機となった「病練日記」シリーズ、その後の風葬を着想源とする作品群「Weathering(風化)」などを展示。会場内は写真撮影OKです。
《Pulse’22》2022年。ティッシュペーパーをロウで固めた人型のオブジェ。【小さな人々一生命の象り】コーナーの展示作品《Where have you gone?Where will you go?》で無数に配置されている人型オブジェの単体。


会場風景は紙や石膏で創造されたモノクロの世界です。
《病棟日記12‐25》1985年。当初はノスタルジックな具象的な銅版画を制作していた艾沢氏の転機となった作品群「病練日記」シリーズ。闘病を続ける実父を看る日々のなかで制作されたもので、下絵となるイメージドローイングから版をつくるという従来の手順を踏まず、銅板に直接描画するという手法をとった(作品解説は会場展示案内より、以下同じ)。
《Weathering(O氏Ⅰ)》1991年。風葬を着想源とする作品群「Weathering(風化)」の一つ。舞踊家・大野一雄をモデルとした作品で、踊る肉体は抽象化され木の根やこぶを連想させる。

【触覚の版ー素材との戯れ】
1995年と1997年に研修のために訪れたニューヨークで学び触発された作品群の展示。ニューヨークで艾沢はアーティストの多くが版という表現にとどまらず、素材と自由に向き合い、個を表現していることに驚かされたという。
《Memory of water'23》2023年。帰国した艾沢が新たな試みとして1996年に制作・発表した床一面に広がる「石膏ドローイングインスタレーション」の再制作作品、1996年に発表した作品では、コンクリートの床に鉛筆やコンテで描線し上から石膏を流した。鑑賞者は床の上を歩くことが出来たため、日を追うごとにドローイングの線はかすれ、混じりあい、変化していったとか。本展示ではスリッパに履き替え石膏部分に近づくことができます。
《Memory of water'23》の盛り上がった石膏部分と描線。


《020798》1998年。艾沢が渡米中に経験した転機の一つコラグラフ。支持体にさまざまな素材を貼りつけて凹凸のある版を作り刷る版画技法による作品。

【つながりあうイメージ】
1990年代に艾沢が集中的に取り組んだ試みの一つであるドローイング(素描)の展示。ニューヨークで出合った版画用のロール紙に惹かれ、床に広げた紙の上に座り込み毎日汚していく気持ちでドローイングを描いた経験から、艾沢は帰国後、多くのドローイング作品を制作。しかも、複数の作品がつながりあう、その関係性で空間を構成するという意識が通底するという作品群。
《ドローイングインスタレーション》2002年。個々の作品は閉じられた存在ではなく、他の作品と組み合わせることにより無数のヴァリエーションが生まれ、作品同士の共鵈が展示空間に溢れる。
作品は版画用のロール紙に紙・クレヨン・オイルバー・鉛筆で表現されています。

【小さな人々一生命の象り(かげり)】
《part of Earth'23》2023年。1996年の《石膏ドローイングインスタレーション》を始点に艾沢が積極的に制作する立体的なパーツを床に設置するインスタレーション作品の一つ。
電話帳のページを裂いて焦がしロウをかけた円錐状ものやシュレッダー紙を無数に配置したもの。床や空間に立体的なビースを一つ一つ置き、その集積で全体を形作るという作風が【つながりあうイメージ】のドローイングに見られる線の集積、個々の作品の組み合わせによるより大きなイメージの形成と共通するそうです。

《where did the owner of the luggage go?》2023年。古紙をロウで固めた人型の作品群は、戦下で虐げられる罪なき人々をテーマにした本郷新氏の彫刻作品「無辜の民」シリーズへのオマージュとして制作された。確かにイメージが共通します。
名もなき儚い存在、動乱の議牲となる人々へ思いを馳せる依り代として形作られた人型の形態は、次第に生命そのものを象徴するようになるとか。
印象的な作品群です。

【ご参考】本郷新氏の「無辜の民」シリーズの作品群です(本郷新記念札幌彫刻美術館)。

そしてカーテンで区切られた空間に設置された《Where have you gone?Where will you go?》2023年。艾沢、青木広宙(センンング・照明)、中坪淳彦(音響)の三者により共同制作された作品。
無数に設置されたティッシュペーパーをロウで固めた人型のオブジェ。その人のシルエットが、三次元画像計測を用いたセンシングにより鑑賞者の動きに合わせて移動する光源に照らされ、壁面に流れるように投影されます。

作品タイトルの「どこへ行ってしまったのか、どこへ向かうのか」という問いを投げかけるように、一つ一つの人型は光を吸い込んで輝き、やがて消えていく。その絶え間ない光と影の明減は、生と死、儚いが強固な生命の循環を見る者に想起させる・・という幻想的な作品です。
《Pulse’22》2022年(再掲)。ティッシュペーパーをロウで固めた人型のオブジェ一つ一つはこんな造形です。

【自然との交感】
中庭に設置された《Relic snow》2023年。
昨年秋に芸術の森内で収集した枯れ木等で制作した作品だそうです。ロウで固めたティッシュペーパーがRelic snow(名残り雪)の様相でした。

以上で本日の鑑賞終了。常に現状を更新し、新たな制作を続ける作家の創造世界をお楽しみください”との紹介の通りに次々と新たなアートを創造する艾沢氏の物凄いエネルギーとパワーを感じます。観る者を圧倒させるような印象深い展示会でした。堪能しました。ありがとうございました。

「札幌美術展 艾沢詳子 gathering―集積する時間」
会場:札幌芸術の森美術館
期間:4月15日~6月11日
休館日:4月17日、4月24日
時間:9時45分〜17時 ※6月は17時30分まで開館 
料金:一般1100円、高校・大学生800円、小・中学生500円
   ※65歳以上は年齢のわかるものを提示すると900円
住所:北海道札幌市南区芸術の森2丁目75番地
TEL:011-591-0090
(2023.4.21)

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