「あの子ね 小さいころから困難なことにぶつかると
やるまえから『だめだ』って決めて
無理にしかってでもやらせるとできるってこともあったから」
「いいえ
あの人はそんな意気地なしじゃありません
そう見えるけどでも違うんです
できないんじゃなくてそれはあの人がしたくないことなんです
でもあの人は『したくない』って言えないから
人から見ると『できない』みたいに思われてしまうんです
『したくない』って言えないのは弱さかもしれません
でもわたしはそれをあの人の優しさと思いたいんです
自分が傷つきやすい心をもっているから人もきっとそうだ、と
あの人はそう考えてるんですわ
だからいろんなことが起こるとほかの人の心の痛みを想像して
その想像に耐えられなくなるほど苦しんでしまう」
「ほかの人の心の痛み、を?
それならば、痛みに耐えて生きている人の苦しみを考えれば
自分だって乗り越えられると勇気を出さなきゃ」
「それは強い人ができることです
草壁さまは皇后さまとは違うんです」
違う、って
わたしの子、なのに
「無礼を承知でお願いします
どうか草壁さまをわたしにまかせてください
優しくつつんで心をほぐしてあげたいのです」
あなたのほうが草壁のことを
よくわかっているというの、ね
「よろしいでしょうか」
そんなものかもしれない
わたしはあの子を産んだけど
あの子はわたしを選んで産まれてきたわけじゃない
「ええ、よろしくお願いするわ
期待しているわ、でもね、
わたしを強い女だと思っているようだけど
違うのよ
もともと強かったわけじゃないのよ
今だって内面は弱さでいっぱいよ
でも強くなりたくて『自分は強いんだ』と言いきかせ続けて
強くふるまうのに憧れて
それだけのことなのよ」
「強くなりたかったのですね
草壁さまは強くなりたくないのです」
あ、ああ、そうなのか
「でも皇后さま
わたしは強くなりたいと願っています
皇后さまのように」