「ちゃんと伝える」(2009年 日)
監督 園子温
「伝えるのは何か」が弱い
(園子温監督作品は初見だが、これまでの作品と異なって判りやすいオーソドックスな手法による作品との前宣伝だった。)
地方都市のタウン誌編集者で27歳の史郎(AKIRA)は、父(奥田瑛二)が末期ガンで入院している。史郎は父に対して高校生時代からのわだかまりがあるのだが、父がガンで倒れてからは、両者とも自分の気持ちを相手にきちんと伝えることの大切さに気づき、病気が治ったら二人で山の湖に釣りに行こうと約束し、楽しみにして釣り道具を揃えたりする。しかし、自らも末期ガンであることが分かり、父や母(高橋恵子)、そして婚約寸前の恋人(伊藤歩)たちに告げられず苦悩することになる。父が鬼コーチだった史郎の高校サッカー部時代の思い出と共に、日常生活が淡々と描かれ、いわゆる「余命もの」とは一線を画すのだが、死を前にして親しき人々と別れなければならなくなるという悲しみはひしひしと伝わってくる。俳優たちの好演により感情移入してしまった後は大いに泣けるであろう。
しかし、「ちゃんと伝える」というテーマに対しての中身は、上記「釣り」を基にした父子の気持ちの交流以外には、末期ガンであることの告知問題に収斂させてしまっているように思われる。もっと違った深みを期待してしまったのだが。結局、「死別」という絶対的な別れによる悲しみが前面に出てメイントーンとなっているのではないか。その悲しみに共感することによる感動がメインになってしまうということは、確かに分かりやすいと言えば分かりやすいが、映画作りとしてアンフェアではなかろうかと考えてしまった。
また、細かい点では、史郎はやけに素直な青年として描かれているのだが、高校の同級生の時からの長い付き合いである恋人と、デートの時や何度も出てくる夜道の別れのシーンでキスどころか一回も手も握らないのには、今どきの若者として不自然に感じられ違和感が残った。
総合評価 ③ [評価基準:(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]