映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

基本は脚本(お話)を重視しています。
お勧めできるか否かの気持を総合評価で示しています。

映画寸評「この愛のために撃て」

2011年09月09日 11時55分03秒 | 映画寸評

「この愛のために撃て」2011年 仏)

  監督 フレッド・カヴァイエ

 

 第一級のサスペンス&アクション

 勤務する病院が銃創を負った急患を受け入れたことから、係の中年看護士サミュエル(ジル・ルルーシュ)が犯罪者の計略に巻き込まれ、身重の妻を誘拐されてしまい、妻を救出するために渦中にのめり込んで行く、という話。見るからに平凡な風貌のサミュエルが、誘拐者から強要されて殺し屋と行動を共にする結果となり、犯罪者と警察から追われながら、否応無く命がけの行動を繰り返していくようになる様が見事に描かれている。

特別大掛かりな仕掛けは無いが、追う者と追われる者の息詰まる攻防は見応え十分。特に地下鉄の駅構内で延々と続く疾走劇は、生身の体の限界まで繰り返されている感じがリアルに表現され、ダレることなく引き付けられる。やたら大掛かりに取り入れられる最近のカーアクションとは、段違いの緊迫感だ。何がどうなっているのか全く判らない大陰謀に思えた真相と、犯人像は、比較的早めに明らかになるが、その後の展開でもサスペンス感たっぷりのアクションが続く。行きがかり上、協同することになった、サミュエルと殺し屋サルテ(ロシュディ・ゼム)が、次第にそれなりに相手を認めて連帯している様子も違和感無く効果的に描かれる。裏社会のタフなプロフェッショナルぶりをロシュディ・ゼムがうまく表現し、暴力に無縁な男が体を張って闘う様をジル・ルルーシュが好演している。


無駄の無いストーリーも最後まで破綻無くうまく練られ、緊迫感は全編を通して途切れることが無い。脇役たちも、それぞれはまって好演している。第一級のサスペンス&アクション映画である。タイトルの邦題は今ひとつピントはずれだが、その基になっているフレッド・カヴァイエ監督デビュー作「すべて彼女のために」も、自分は未見なので是非見たいものである。


余談ながら、フランスでは、あれだけの犯罪者があんなに早く仮釈放になり得るのか、という疑問が残った。

 

総合評価 [ 評価基準:(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]


映画寸評「一枚のハガキ」

2011年09月06日 17時55分24秒 | 映画寸評

「一枚のハガキ」2011年 日)

  監督 新藤兼人

 

戦争の理不尽さを残された者の視点で追及

 

戦争末期に徴用された100人の中年兵たちは、上官が引いたくじにより配属先が決められた。生き残る可能性がある配属先となった啓太(豊川悦司)は、死地に赴く定造(六平直政)が妻・友子(大竹しのぶ)から受け取ったハガキを渡され、戦後に友子を訪ねてそのハガキを見せて確かに受け取ったというメッセージを伝えるよう頼まれる。

定造は戦死し、定造の両親(柄本明・倍賞美津子)と共に村に残された友子は、その両親の願いを入れて因習に従いそのまま街から呼び戻された定造の弟と結婚するが、彼もまた出征し戦死する。それらを全て運命として受け入れ、希望は無くも必死に生きていこうとしつつ、しかしその運命を憎み、やり場の無い無念さ悲しみを抱えた友子の境遇と思いを大竹しのぶが熱演で表現している。さらに、そういった友子の気持ちは、定造の両親も死んで一人となった戦後の友子を尋ねて来た啓太との会話のやり取りの中でも、激しく繰り返し噴出する。

友子が憎む運命の理不尽さ、くじにより生死が決められたかのような馬鹿馬鹿しさを言うことにより、戦争の理不尽さ馬鹿馬鹿しさを強く追及することになっている。また、国家によりいとも簡単に国民の命が使い捨てにされることの愚かさを表している。これらは、定造が自宅の庭で万歳により送り出されて小さい行列とともに画面から消えて行った、同じアングルのまま、戦死した定造の白木を抱えた行列となって戻ってくる、といった戯画化された表現などでも象徴的に示される。

やがて、友子に好意を寄せて妾になってくれと懇願する村の有力者・吉五郎(大杉漣)と啓太が殴り合いの喧嘩をすることになるが、この辺りから、啓太の金をめぐる友子とのやりとり、ブラジル移民に行く行かないなどのやりとりなどを含めて、話はファンタジックな様相に流れながらも、生き残った者たちの再生と希望へと繋がる結末となっている。

ついでに気になったのは、とことん嫌な人間と思えた吉五郎が啓太との激しい殴り合いの結果で仲直りして親しみの持てる男になるという、リアルではない男同士の余りに陳腐な描き方を取り入れていることである。またこの場合の吉五郎は一方で、「遥かなる山の呼び声」でハナ肇が演じた役の矮小化された焼き直しになっている。

ともあれ、これが最後の作品になるであろうと思われる99歳の新藤兼人監督の熱い反戦の思いは十分に伝わる出来である。

 

総合評価 ④ [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる   ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]