「この愛のために撃て」(2011年 仏)
監督 フレッド・カヴァイエ
第一級のサスペンス&アクション
勤務する病院が銃創を負った急患を受け入れたことから、係の中年看護士サミュエル(ジル・ルルーシュ)が犯罪者の計略に巻き込まれ、身重の妻を誘拐されてしまい、妻を救出するために渦中にのめり込んで行く、という話。見るからに平凡な風貌のサミュエルが、誘拐者から強要されて殺し屋と行動を共にする結果となり、犯罪者と警察から追われながら、否応無く命がけの行動を繰り返していくようになる様が見事に描かれている。
特別大掛かりな仕掛けは無いが、追う者と追われる者の息詰まる攻防は見応え十分。特に地下鉄の駅構内で延々と続く疾走劇は、生身の体の限界まで繰り返されている感じがリアルに表現され、ダレることなく引き付けられる。やたら大掛かりに取り入れられる最近のカーアクションとは、段違いの緊迫感だ。何がどうなっているのか全く判らない大陰謀に思えた真相と、犯人像は、比較的早めに明らかになるが、その後の展開でもサスペンス感たっぷりのアクションが続く。行きがかり上、協同することになった、サミュエルと殺し屋サルテ(ロシュディ・ゼム)が、次第にそれなりに相手を認めて連帯している様子も違和感無く効果的に描かれる。裏社会のタフなプロフェッショナルぶりをロシュディ・ゼムがうまく表現し、暴力に無縁な男が体を張って闘う様をジル・ルルーシュが好演している。
無駄の無いストーリーも最後まで破綻無くうまく練られ、緊迫感は全編を通して途切れることが無い。脇役たちも、それぞれはまって好演している。第一級のサスペンス&アクション映画である。タイトルの邦題は今ひとつピントはずれだが、その基になっているフレッド・カヴァイエ監督デビュー作「すべて彼女のために」も、自分は未見なので是非見たいものである。
余談ながら、フランスでは、あれだけの犯罪者があんなに早く仮釈放になり得るのか、という疑問が残った。
総合評価 ⑥ [ 評価基準:(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]