映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

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映画寸評「ジュリアン」

2019年02月06日 17時47分16秒 | 映画寸評

「ジュリアン」(2017年・仏)
監督 グザヴィエ・ルグラン

ケチなDV男を描いただけの駄作

(以下、ネタばらし有り)

母ミリアム(レア・ドリュッケール)と父アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)の離婚調停で、判事によりDVの父にも共同親権が認められ、母と暮らす11歳のジュリアン(トーマス・ジオリア)は隔週末に父と過ごさなければならなくなるという始まりである。厭々それに従うジュリアンに対し、妻子に未練たっぷりのアントワーヌが母子の新しい住所を聞き出そうと脅したりすかしたりする。ジュリアンはアントワーヌを拒否し怖がりながら、母のためにとぼけたり嘘をついたりの抵抗を試みるのだが、そういったやり取りがだらだらと続き、映画への期待がだんだんしぼんでくる展開だ。

アントワーヌが強引、巧妙、狡猾に妻子を支配下に置いていて、ジュリアンが如何にそこから脱するか、という話かと思ったら、どうもそうではない。アントワーヌは自分の両親からも愛想をつかされ身を寄せている実家からも追い出されてしまうダメ男で、無理矢理聞き出したミリアムの家に押し掛けて泣いて見せたりする。それに対し、完全に彼を拒絶しているはずのミリアムの対応がいかにもあいまいで、これによってDV支配の根強さを描いたつもりなら全く的外れである。ジュリアンの嫌悪と不安でやり切れない心情は一貫してよく表現されているが、ただそれだけの映画である。

やがてジュリアンの18歳の姉とその恋人が主催するパーティがとってつけたようにあるが、これもまた何の意味も持たないと思える。最後はアントワーヌが猟銃を持って、母子に会うために深夜の住まいに押し掛け、ドアを蹴り続けたり、猟銃を発砲したりの騒ぎで、当然ながらアパートの隣人の通報で警察が駆けつけて逮捕されてしまうという結末。無理心中を企てたようでもなく、単にやけくその後先考えない行動で警察にも言い訳しようとするお粗末。それに対して母子は怯えて震えているだけであり、全く何のひねりも深みもない話である。

ベネチア国際映画祭で受賞したとのことで、誉めた批評や紹介を目にするが、こんなものに「背筋が凍る」とか「心臓が飛び出しそう」とか、宣伝にしても恥ずかしくないのか。ニュースで父親による虐待で死亡した10歳児の作文を読み、その情景をちょっと想像しただけで慄然とするが、この映画には何の感慨も起きなかった。

総合評価 ②  [ 評価基準:(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]