「J・エドガー」(2011年 米)
監督 クリント・イーストウッド
全く共感できない人物の伝記映画
あのクリント・イーストウッド作品なので、遅ればせながら名画座で観た。
米連邦捜査局(FBI)の初代長官ジョン・エドガー・フーバーの伝記映画である。フーバー(レオナルド・ディカプリオ)は科学的捜査方法を取り入れるほか、あらゆる手段を用いてFBIと自らの権威を強化することに没頭し、1972年に78歳で亡くなるまでその職にしがみついていた。その過程を描きながら映画は、信頼する秘書ヘレン(ナオミ・ワッツ)や同性愛の対象でもある副長官トルソン(アーミー・ハマー)との関係を通してフーバーの内面を描写していく。
結局明らかになるのは、権威主義、妄信的な反共主義・人種差別主義者であり、盗聴などの違法な手段を用いて相手の弱みを握っての恐喝を駆け引きの手段に使うのみならず、自らの世間的評価を取り繕うことにも異様に執着する、といった人物像である。内面の孤独や不安がいくら描かれていようとも全く共感できない人物である。そのような人物を描いた伝記映画を観るとき、我々はどのようにその映画を楽しめるのか、という問題を改めて考えさせられることとなった。共感できない極悪人を描いた映画であっても、そこに何らかの共感しうる真実、例えば反権力、知恵比べ、義侠心などといったものが含まれているものであれば、それなりの観かたも出来るのであろうが、フーバーについては観ていてどんどん嫌になるばかりであった。
もはやすっかり多彩な演技が出来る俳優となったディカプリオは好演している。傑作を作り続けているクリント・イーストウッド監督の演出も穴は無いように思え、監督が「老い」「孤独」といったテーマを追っていることも理解できるが、駄作「ヒアアフター」に続き、テーマ選択に失敗しているよう思えてならない。名画座併映の「許されざる者」は2度目だが、やはり面白かった。
総合評価 ② [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い
③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ
(0 論外。物投げろ)]