「家族はつらいよ2」(2017・日本)
監督 山田洋次
笑いは大きくないが社会性で深み
家族内の他愛ないドタバタを手慣れた手法で描いた喜劇で、爆笑するような面白さはないが、高齢者問題という社会性を取り込んだところにそれなりの深みが感じられる作品である。
引退して自由に暮らしている平田周造(橋爪功)・富子(吉行和子)夫妻と3人の子供たち及びその配偶者とが、家族内の問題でやり取りする中で、交わされる会話の端々に現われる本音とのズレをすくい取って笑わせる。今回、富子は序盤で北欧旅行に出かけてしまい、厄介ごとの元となるのは頑固おやじの周造であり、周造対他の家族というパターンは、「男はつらいよ」の寅さん対家族、の焼き直しである。橋爪功が好演してはいるが、寅さんと比べると灰汁が弱いのは当然で、監督の職人芸的な技で笑わせはするが、新味のない古典的なやり取りとも言え、笑いは小さい。その分、つまずいて転んだり等の無理なドタバタを多用しすぎており、特に、周造が家に泊めた高校時代の同級生・丸太(小林稔待)が急死しているのを翌朝見つけて、看護士をしている義理の娘・憲子(蒼井優)以外の全員が怖がる様は余りにオーバーだ。殊にうなぎ屋の出前など極端すぎて白けてしまう感じだ。
家族はつらいよ、と言いながら、全員が安定した生活で仲良くやっており、経済的にもそれなりに恵まれた中流家族の小さな波紋を描いているだけで物足りなさを感じるのだが、それでも確かに前作より良いと言えるのは、高齢者問題という現代の社会性を取り入れているためであろう。周造の自動車運転に絡む高齢者の運転免許問題や、特に事業に失敗して妻子とも別れ、73歳の現在でも工事現場の警備員で働いている丸太に表される、孤独で貧乏な高齢者問題と死体の引き取り手もいない孤独死という問題だが、憲子の祖母が認知症であることもさらりと写して見せる。それらについて、周造が嘆いてみせるがそれ以上声高な主張をするのではなく、掘り下げもないが、喜劇の背景としてさりげなく問題提起をしているバランスが良い、のであろう。さらに周造のそれなりに立派な戸建て住宅や息子・庄田(妻夫木聡)のマンション、憲子の母親と祖母が住むアパート、丸太のアパートなどを写すことで、それぞれの経済力の格差を自然に描いているところも印象的である。
役者はそれぞれ好演しているが、前作に続いて真面目でおとなしい末っ子を演じた妻夫木の抑えた演技が良いと感じられた。
総合評価 ④ [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]