「黄色い星の子供たち」(2010年 仏・独・ハンガリー)
監督 ローズ・ボッシュ
歴史的事実の重みが圧倒
ナチス支配下のパリで、その圧力の下にフランス政府が行ったユダヤ人大量検挙から始まる歴史的事実を描いたもの。パリでは既にユダヤ人は衣服の胸に黄色い星を目印として付ける生活を強制されていたが、国境を越えて逃げてきた人々も交えて穏やかに暮らしていた。1942年7月の早朝に一斉検挙が行われ1万3千人が自転車競技場へ詰め込まれるのだが、それまでの各家庭の仮の平和が一気に暗転する様が生々しく描かれる。そしてその時に、検挙からヤダヤ人を庇おうと様々な努力をしたフランス人もおり、実際にかなり大量のユダヤ人が検挙を免れたそうだ。権力に媚びる者に対比してこうした事例も描かれるのだが、この点のエピソードをもっと多く盛り込んでも良かったように思える。
と言うのも、この後ユダヤ人たちはフランス北部の収容所に送られ、そこで短期間暮らした後、東ヨーロッパの収容所に送られることになるのだが、その過程では圧倒的な暴力装置の下にいかなる抵抗も不可能となってしまうのだから。後半は収容所内での生活が淡々と続き、家族のつながり、いかなる場所でも走り回る子供たちの姿と共に、赤十字から派遣された看護師アネット(メラニー・ロラン)や収容者であるインバウム医師(ジャン・レノ)の献身的な看護・治療活動が描かれる。特に、何とか子供たちを助けたいというアネットの深い思い入れを通して我々の共感を誘うものとなっている。しかし一切の抵抗も許されない状況下では、もはやドラマも生まれ得ない。わずかに2少年の脱走に快哉を感じるのみで、そこでは物語としての面白みは期待できない。結局、歴史どおりアネットたちの努力は無に帰すことになる。
今までも様々に描かれてきたナチスの残虐非道、その歴史的事実としての重みが、改めて訴えかけられるものである。愛人たちと別荘で遊ぶヒットラーの描写など有っても無くてもよいものであろう。
総合評価 ④ [ 評価基準(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]