映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

基本は脚本(お話)を重視しています。
お勧めできるか否かの気持を総合評価で示しています。

映画寸評「黄色い星の子供たち」

2011年08月08日 06時33分54秒 | 映画寸評

「黄色い星の子供たち」2010年 仏・独・ハンガリー)

  監督 ローズ・ボッシュ

 

歴史的事実の重みが圧倒

 

ナチス支配下のパリで、その圧力の下にフランス政府が行ったユダヤ人大量検挙から始まる歴史的事実を描いたもの。パリでは既にユダヤ人は衣服の胸に黄色い星を目印として付ける生活を強制されていたが、国境を越えて逃げてきた人々も交えて穏やかに暮らしていた。19427月の早朝に一斉検挙が行われ13千人が自転車競技場へ詰め込まれるのだが、それまでの各家庭の仮の平和が一気に暗転する様が生々しく描かれる。そしてその時に、検挙からヤダヤ人を庇おうと様々な努力をしたフランス人もおり、実際にかなり大量のユダヤ人が検挙を免れたそうだ。権力に媚びる者に対比してこうした事例も描かれるのだが、この点のエピソードをもっと多く盛り込んでも良かったように思える。

と言うのも、この後ユダヤ人たちはフランス北部の収容所に送られ、そこで短期間暮らした後、東ヨーロッパの収容所に送られることになるのだが、その過程では圧倒的な暴力装置の下にいかなる抵抗も不可能となってしまうのだから。後半は収容所内での生活が淡々と続き、家族のつながり、いかなる場所でも走り回る子供たちの姿と共に、赤十字から派遣された看護師アネット(メラニー・ロラン)や収容者であるインバウム医師(ジャン・レノ)の献身的な看護・治療活動が描かれる。特に、何とか子供たちを助けたいというアネットの深い思い入れを通して我々の共感を誘うものとなっている。しかし一切の抵抗も許されない状況下では、もはやドラマも生まれ得ない。わずかに2少年の脱走に快哉を感じるのみで、そこでは物語としての面白みは期待できない。結局、歴史どおりアネットたちの努力は無に帰すことになる。

今までも様々に描かれてきたナチスの残虐非道、その歴史的事実としての重みが、改めて訴えかけられるものである。愛人たちと別荘で遊ぶヒットラーの描写など有っても無くてもよいものであろう。

 

総合評価 ④ [ 評価基準(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]


映画寸評「デンデラ」

2011年08月01日 08時02分33秒 | 映画寸評

「デンデラ」2011年 日 )

  監督 天願大介

 

リアリティが全く無いお粗末

 

口減らしのために村の掟で姥捨て山に捨てられた老婆たちが、実はその後も集団を作って生き延びていたというお話。この意表をつく設定は斬新で気を引くが、この思い付きだけで成り立っていると言っていい、リアリティのまるで無い作品である。

70歳になって掟どおり山に捨てられたカユ(浅岡ルリ子)は、捨てられた女たちのデンデラという共同体に助けられる。それは100歳になる長老メイ(草笛光子)が作りリーダーとなっている50人になる集団であり、自給自足でたくましく生き延びているものだ。しかし労働力とならず口減らしとして捨てられた老婆たちが、厳しく豊ではない自然の中でどのようにして生きていけるのかという説明はほとんど無く、どんぐりを食べたりたまにウサギを捕らえたりという程度のお粗末な描写のみである。そしてメイたちは自分たちを捨てた村人に復讐しようと武闘訓練までしており、多くの者が賛同している。その主張を聞くと、彼女たちが捨てられたのは、村の男たちの悪意により村八分的に阻害された結果のように思える。心ならずも口減らしをしなければ村全体が生きていけなくなるほどの貧しさの結果であることや、それを村の掟として続けてきて自分たちもその親たちを見殺しにして生きてきたという事実は、きれいさっぱり忘れ去られているのである。これらの点は、復讐に反対するマサリ(倍賞美津子)の意見にも出てはこない。そもそも前述のような老婆たちが山の自然で生き延びられる程度の貧しさであれば姥捨てなどなかったであろうに。ここに至って名作「楢山節考」とは無縁の話になりきってしまっているのだ。

やがて話は、デンデラが熊に襲われ熊との戦いが中心になっていくのだが、それらも特たる面白さは無い。弓矢があるならなぜもっと使わないのか、もっと作戦の立てようがあろう、など細部にまでリアリティの無いこと甚だしい。特に、最後にカユが選択した行動とその顛末については、なんのこっちゃとあきれ返るほか無い。

かつてのスター女優が多数出演しているのだが、一部を除いて誰がどれやら良く判らず気にもならなかった。浅岡ルリ子がノーメイクでがんばったという触れ込みで、ほんまかいなと思いつつ見たが、やはり、目の周りはいつもの真っ黒ベタベタ塗りたくりではなくて普通のメイクである、という意味のようであった。

 

総合評価 ① [ 評価基準(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投ろ)]