◇夏の甲子園
【第4日 第4試合】
三重(三重) 5×-4 熊本工(熊本) (延長10回)
いやあ、
夏の甲子園はやっぱり面白い。
何の気なしに見出した三重vs熊本工の一戦。
はっきり言って、
両校の地元以外の人にとって、
見どころの多い対戦ではありませんでした。
ワタシは、
『熊本工の戦力はどんなもんかな?』
というくらいの軽い興味で見始めました。
しかし、
序盤から鋭い両校のバッティングと気迫あふれる守備に、
グイグイと試合に引き込まれてしまいました。
そして、
9・10回の攻防は、
『これぞ高校野球』
という素晴らしいものでした。
同点で迎えた9回、
熊本工がついに三重のエースを捕らえて1アウト1・3塁のチャンスを作ります。
ここでバッターの放った大きな打球はライトへ。
ライトは三重の先発で、途中からライトに入っていた背番号①クン。
背走また背走で、
グローブのある手をいっぱいに伸ばして打球をキャッチ。
犠牲フライで1点は取られましたが、
抜けていれば試合が決まってしまうところ。
『ゲームセービング』
なランニングキャッチで、
まだ試合は終わっていないぞ、と全身でアピールします。
その裏1点を追いかける三重。
2回から好投を続ける熊本工のエース相手に、
1アウトから、
これまで4-0、3三振と完璧に抑えられていた3番が意地のヒットで繋ぎます。
最後の打席に、するもんか!
気迫満点の一打でした。(食らいつくとはまさにこのこと)
ここで、
バッターは今日3安打の、今大会注目の4番。
「長打で同点」
と誰もが思った場面で、
熊本工の2年生エースは渾身のピッチングで、
この対決を制しました。
2アウト。
『いよいよこの激戦も終止符か』
というムードが漂い始めます。
しかし燃えていたのが次の5番。
『終わってなるものか』
の魂を載せた一撃は、
右中間を深々と破り同点!!
アルプススタンドは大興奮です。
今度は一転、
サヨナラのチャンスを迎えた三重が、
押せ押せのムードを迎えます。
熊本工は、
ここで背番号12の3年生左腕を投入。
実はこの投手、
チームのエースと期待されながら肘に故障を負い、
冬場に手術を受けているんです。
この夏の大会も、
予選4試合で4イニングの投球。
たぶん、
無理はできない状態なんでしょう。
その彼が、
土壇場の大ピンチでマウンドへ。
『オレが抑えてやる』
という3年生の意地が爆発した、
いい表情をしています。
一言で言うなら『気合い満点』
そして投げる球は、
彼の持ち球で最高のストレート一本やり。
苦しんできた彼には、
最高の場面だったのではないでしょうか。
渾身のストレートで相手をねじ伏せ三振に取った彼は、
勇躍ベンチに戻っていきます。
延長10回。
今度は三重の守備陣がピッチャーを救います。
5回から投げ続けているピッチャーには、
疲れの色が見えて、
投球が浮いてきています。
2アウト3塁の大ピンチ。
しかし、
ここで熊本工の放った火の出るようなライナーを、
ショートがダイビングでキャッチ。
『守備の人』で鳴らした3年生のショートが、
この大事な場面でも『オレの真骨頂』を見せてくれました。
三重は、勝ち越しを許しません。
一投一打に、
こんなに緊張感のある試合が甲子園で出来る。
素晴らしい両チームの攻防でした。
最後の最後、
先ほどファインプレーでチームを救ったショートが、
1アウト2塁の場面で打席に立ちます。
やっぱり野球の神様は、
粋な演出をします。
いつも目立たない『守備の人』が放った打球は、
両チームのベンチとアルプスの悲鳴と歓声を乗せ、
ゆっくりとショートの上を越えていきました。
サヨナラゲーム。
その瞬間、
マウンド上の熊本工・12番の彼。
呆然とした表情を作っていました。
その後、
熊本工の選手たちは、
しばし呆然とした表情を変えませんでした。
まるで、
負けを認められない、
とでもいうように。
勝敗がくっきりとしたコントラストを奏でるサヨナラのシーン。
美しくもあり、
残酷でもあります。
しかしながら、
ただのいち野球ファンをこんなにも感動させられる、
甲子園の試合ってなんてすごいんでしょうか。
すごい試合でした。
意地と意地のぶつかり合いでした。
両チームの選手諸君。
素晴らしい試合を、ありがとう。
最後にひとこと。
甲子園の試合の見方。
決して事前に
『好ゲーム』
『好投手と強打者が出場』
と前評判のある試合ばかりがいい試合じゃないよ。
事前には余り興味がなかったカードでも、
もしかして、
見だしたら一生忘れられない試合になるかもよ!
それが甲子園ってところさ!