ブログタイトルになっているセリフは、実は書籍(新書)の標題です。
著者は、声優事務所『スタイルキューブ』創立者にして現社長の…
たかみゆきひさ(野口隆行)氏。
小倉唯さんが所属する、というより彼女が声優デビューしたときに所属していて…
いちど移籍した後、長い年月を経て再び「出戻り」した事務所の社長さんですね。
このちょっと挑発的なタイトルは…
近年、声優が「アイドル化した」として批判されていることに対して…
声優がアイドル化したっていいんじゃないの?というストレートな意味と同時に…
声優がアイドル化している現状のどこに問題があるか、という意味が込められているようです。
アイドル化してもいいじゃないか、というのは、実は読めばわかりますが…
いまや声優は、アイドル化(総合タレント化)しなければ食って行けないし…
同時に声優が所属する事務所は、間違いなくどこも経営が成り立たない。
それは業界的な仕組みのせいで、すぐに変えることが不可能である以上…
現状とりあえず声優を「総合タレント化」することで乗り切るしかない、ということでもあります。
内容的には、これまでと現在の「声優業界」の仕組みと問題点の説明と…
そんな中でたかみ氏が何をすることで、業界に貢献し、変革を試みようとしてきたか。
その過程で世に送り出した小倉唯、石原夏織らの、振り返りエピソードの記述。
さらに、これから声優を目指そうという人たちへの進言、アドバイスという形になっています。
正直、私個人としては、目新しい内容はとくになくて…
良く知っていて、このブログや以前やっていたブログにも書いてきたこと…
それから、たぶんこうなんだろうなと思っていたことの再確認でした。
たかみさんが本の中で述べていることには、部分的に異論もあります。
旧Twitterで、たかみさんとタレントの政治的発言について、ちょっと議論したこともあります。
「タレントを守る」ということを第一に考える、たかみさんの主張は十分に理解できました。
とにかくこの本……
声優がアニメや外国映画に声を当てる仕事だけでなくて、歌手のように歌を歌ったり…
バラエティー的な内容のイベントに出演したり…
最近はテレビに出演して顔出しの仕事をするようになっている現状について…
「なんで?」と疑問に思っている人たちには、腑に落ちる説明をしてくれるものでしょう。
そして、近年「爆増」と言って良いくらいに増えている…
声優になることを志望する人たちにとって、参考になる本でもあると思います。
それにしても、声優のギャラが、事務所の「中抜き率」に関しては…
一般の「芸能界」の常識からみれば、度外れたほど少ないにも関わらず…
(ギャラの配分は、声優8に対して事務所2、がこれまでの一般的なもの)
それでもなお、アフレコだけでは声優が「食えない」こと…
(まして声優事務所は、経営が成り立つわけがない)
アニメを楽しんでいるオタクさんの、どれだけが認識しているでしょうか。
ギャラの問題は、声優だけでなく、アニメーターなどに関しても同じです。
この世界で働くプロの個人の生活が、これほどまでにないがしろにされて…
利益が一部の「企業」によってほとんど食い尽くされる仕組みは、異常です。
一朝一夕に変わらないとはいえ、こうした構造をこのまま放置していれば…
やがて業界全体が崩壊し、中国をはじめとする外国の企業に、市場が席巻される。
中国企業は、日本の業界の2倍3倍、というレベルで良いギャラを提供してくれますから。
でも消費者であるオタクは、現実の問題から逃避するためにコンテンツを楽しんでいて…
アニメ業界の労働運動とか、組合とかユニオンとかいうものを「見たくない」でしょう。
そういうわけで、オタクの多数派は、政治的な問題からは強いて目を逸らしたい。
それどころか、彼らの中には一般の人以上に「リベラル」や「サヨク」を毛嫌いする…
「右派支持」の人間も多いです。
なので、消費者の側から、こうした構造に異議を唱えるなどということはまずないでしょうし…
アニメ業界で働く人々が権利を主張して、業界を改革しようと行動することには…
アレルギー反応を起こして、そういう個人や集団からは離れて行く可能性の方が高い。
そうなると、日本の声優やアニメーターが生きてゆく道は、外国企業に頼るか…
声優の場合は「タレント化」「アイドル化」する以外にないです。
反中嫌韓傾向がある上に「声優は声の仕事だけに集中しろ」などという言説は…
この業界の労働者に対して「死ね」「辞めろ」「消えろ」と言っているに等しい。
ということに気が付かないか、見ないように努めている人がほとんど…
なのが、実は一番問題なんですよね。