KANON廃園

スタジオカノン21年間の記録

法人化への道

2019年08月22日 | カノンの記録
1998年(平成10年)の7月に「有限会社スタジオカノン」として法人登録をしました。
自分の会社ですから、法務局に行ったり公証役場に行ったり、書類作成などそのほかの煩雑なことも全て自分でやってみることにしました。
まずはじめに杉並区内で類似称号がないか調べるため、法務局に行きました。
「スタジオカノン」はなかったので無事クリア。(この当時は英文字標記できませんでした。)
市販の書類を買ってきて、「定款」という登記申請のために必要な書類を慎重に書きました。役員を決めたり、印鑑証明をとったり、会社のハンコを作ったり、なんとかいろいろ準備しました。
書類の届け出が7月だったので、それが設立した日となるのですが、営業開始日を8月からとしたため、7月の1ヶ月がまぼろしの1期となってしまいました。
そんなわけで平成10年8月1日(第2期)が実質、有限会社スタジオカノンのスタートとなったのです。(有限会社の新規設立は2006年に廃止されました。)

会社を作るということは、雇用主と被雇用者、社長と社員の関係が明文化されるということです。そして報酬は「給料」という形で毎月一定額支払っていかねばなりませんから、社員は低額ながらも月々の保証はされ、有給も得られます。
しかし未経験者がはじめるとなると、仕事ができるようになるまで最低3ヶ月〜1年は必要となり、雇用者は先行投資となり、育つまでの忍耐が必要となってきます。

被雇用者は絵を描くという楽しさから始めたはずなのに、ノルマや締め切りに追われて絶えずプレッシャーを感じ、
雇用者の方は、絶えず先の仕事を心配しなければなりません。仕事がうまく入らなかったらすぐに「赤字」の2文字がちらついてくるのです。

幸か不幸か、この業界は万年人手不足で、仕事はなにかとあるものです。
問題はスケジュールの中でこなせる枚数とギャラのバランスが取れていないということ。
 これは今でもさほど解消されてないのではないでしょうか。
少人数体制はどうしてもスタッフ一人の負担が大きいのでので、
人数を増やして、効率よく仕事をこなして行く方が当然ながら賢明というものです。

けれどあまり営業面は気にせず、経理面は専任者に任せ、自分はいかに納得のいく背景を描くかということの方が大事だったので、スタッフには無理をさせてばかりの毎日だったかもしれません・・・。








「 天使になるもん!」制作初期に並行してお手伝いしていた合作作品「サイバーシックス」
コントラストの効いたかっこいい背景でした。

★サイバーシックス 2000年〜2001年放送 全13話
 日本とカナダの合作 
 原作 アルゼンチンのカルロス・トゥリージョ、カルロス・メグリア作の同名コミック
 総監督 増田敏彦
 キャラクターデザイン  滝口禎一
 美術監督 白石誠
 製作 トムスエンターテインメント、NOA(ネットワーク オブ アニメーション)
 協力 テレコムアニメーションフィルム


1998年(平成10年)の仕事②〜天使が竹藪に落ちてきた!?

2019年08月20日 | カノンの記録
★「天使になるもん!!」1999年4月〜9月放映 全26話
 原作HEAVEN PROJECT
 原案・監督 錦織博
 シリーズ構成 池田眞美子
 キャラクターデザイン 加藤裕美
 美術監督 柴田千佳子
 色彩設定 いわみみか
 アニメーション制作 スタジオぴえろ

30分枠のTVシリーズとして カノンが美術、背景の全てを受けた最初の作品です。
もともとの漫画原作のようなものはなく、
日本アニメーションで活躍していた加藤裕美さんのキャラを使って
オリジナルアニメを作ろうと仲間内で企画されたもの。
そのため前年にプレゼンテーションを作り、さらに内容が絞り込まれたようですが、お話は最後までどう展開するのか全くわからないままでした。

受ける(と思われる)要素をたくさん盛り込んで、人間と天使、ラブコメディとシリアスドラマがごっちゃに展開するおもちゃ箱のような世界。
くるくる動き回るノエルちゃんのほっぺたも揺れ、不思議キャラもたくさん登場しました。
必然、背景もリアル一直線ではなく、ファンシーでカラフルなものが色々出てきました。

放送が翌年の4月スタートだったので、#1は半年以上かけて制作していました。この年で6本、放送まで8本背景をこなしました。
「逮捕しちゃうぞ」の失敗があるので、これはスケジュール的には余裕があるかなと思っていましたが、
そこはアニメ界の常識、瞬く間に詰まってきて、#15あたりから月4本こなさなければいけない状態になり、スタッフ一同棲息吐息。
急遽、よその背景会社に応援を頼んだり、いろいろな準備に追われててんやわんやでした。
徹夜明け、床に倒れて寝ていたことを思い出します。


ノエルが落ちてきた竹藪 ここで祐介に発見され、彼がお婿さん候補となります。

 
祐介の家がなぜかなくなって、代わりにノエルの家が出現。魔法によって作られた生き物のような家です。


ノエルの家は不思議空間なので、リビングの入り口もこんな感じ。
あえて全体の見取り図(間取り図)がなく、遊園地に迷いこんだだような感覚。次々におかしな場所が現れました。


二人が仲良く自転車通学する道。
空の濃い青さは当時の流行だったのかもしれませんが、空を斜めに白く飛ばすことで光と空間を表現しています。

こ作品は背景がたくさん残っているのですが、まるでデータ化していなかったので、設定や背景集だけでも作れば面白いかもしれません。




1998年(平成10年)の仕事①〜謎だらけの「すごいよ!!マサルさん」

2019年08月18日 | カノンの記録
★「セクシーコマンドー外伝すごいよ!!マサルさん」

原作 うすた京介
監督 大地丙太郎
助監督 桜井弘明
音楽 山本はるきち
題字 西村知美
キャラクターデザイン 桝館俊秀
色彩設計 西川裕子
美術監督 柴田千佳子
撮影監督 神山茂男
制作 マジックバス
TBS「ワンダフル」という情報番組内の10分枠で1月から月〜木曜週4回放送

セクシーコマンドー部の設立者にして部長の花中島マサルとその仲間の活躍を描くシュールなギャグ漫画。そもそもセクシーコマンドーって何?なぜに「わかめ高校」?
マサルさんはもしかして仙人か宇宙人?メソの正体は?
つっこめばつっこむほど謎の多いお話でした。

背景的にはほとんどイメージBGなので、大地監督に全部お任せされました。
そこで原図を床一面にならべて、コンテ片手に画面の流れに即したイメージをあれやこれやと考えたものです。
イメージBGというものを安易に考えてはいけません。
リアルな背景を描くのが得意でもイメージシーンが全くわからないという人もいるくらい、実は想像力を要するもの。
だいたいは監督や演出さんが色味や雰囲気を指示してくださいますが、ここまでイメージが多いと、全部よろしく〜となってしまうこともあるのです。

流線や集中線、ふわふわ輪っかなど、パターン化されているものも多いですが、
このマサルさんではクレヨンやスクリーントーンを使ったり、紙をちぎって張ってみたり、色々試すことができました。
(のちにデータバンク素材として今でも残っているものもあります。)


わかめ高校正門  時計塔にはわかめがぶら下がっていますがこちらは普通です。
この辺りの背景はミューズコットン紙を貼り合わせて色鉛筆、耐水性のペンを使って仕上げました。




原図では空グラデの指示でしたがなぜかミロ風のイメージに。クレヨンをベースにはじき効果を出しています。




ダバ絵といわれるぞんざいなタッチの絵で描かれたキャラ。ハーモニー処理が多かったです。


何のシーンか忘れましたが、リアルめなBGもありました。


鬼退治に行く話なので昔話風のBGです。


1997年(平成9年)の仕事

2019年08月16日 | カノンの記録
★「ドレミファ・どーなっつ!」
NHK子供向け番組「おかあさんといっしょ」の人形劇で有名ですが、この年アニメ版も作られました。
ドーナツの形をした島に住む みど、ふぁど、れっしー、空男 の擬人化動物キャラが活躍するお話。
制作協力 ノーサイド
美術監督 河野次郎

 返却してなかった河野さんのボードがありましたので掲載します。







★OVA「HEN」
原作:奥浩哉 『HEN』(集英社刊「週刊ヤングジャンプ」連載
監督:鈴木大司
キャラクターデザイン:梅津泰臣
作画監督:なかじまちゅうじ
美術監督:柴田千佳子
音楽:つのごうじ
アニメーション制作:グループ・タック
制作協力:プロジェクトチーム・サラ

#1は巨乳をふりかざす女子高生に振り回される軟弱教師の話
#2は巨乳女子高生が発育未熟タイプの同級生に恋する百合っぽい話

登場人物も作画も背景も普通のようで実は普通じゃない学園ものエロティックアニメ!?。

久々に#1を見たら、あるドラマを思い出しました。
それはフランスで制作されたヒッチコック劇場で、変態教師が女子高生を付け回して殺したり、刑事が美人の人妻に欲情して、旦那を無実の罪で逮捕して、人妻に迫るものの、逆に殺されてしまうというなんとも酷い話が多いのですが
ブラックユーモアというのか、フランス風エスプリというのか、「女の前で男はみんな愚かな奴隷である」という感じで、どこか笑いを誘ってしまう、ああ人間・・という感じのドラマ。
これがイギリスや日本のドラマだと、殺人や、姦淫など、その「罪」の重さをどっぷりとつきつけて裁きを下すのですが、フランスはどちらかというとその罪の要因となった人間のもつエゴイスティックな愛や感情というものの表現に重きをおくのでは・・と勝手に解釈してみました。
 
そんなわけで「変」は様々な変な関係を描きながら、道徳的には間違った方向に行くエロスをさらりと解放してくれているのかもしれません。

本番ボードが残っていました。 

教師のアパート


女子高生と一緒に乗る電車


893風男に追いかけられる教師の妄想シーンの公衆トイレ

不思議な一軒家

2019年08月15日 | カノンの記録
1997年(平成9年)5月、スタジオカノンは杉並区本天沼の住宅街にある一軒家に移転しました。
この家の作りはちょっと変わっていて、1階はワンルーム、2階もワンルームでそれぞれキッチンとトイレがついていました。
お風呂は2階のみ。まあ、2世帯住宅といえばそうなのですが、広いワンルームだけだと複数人の家族ではちょっと住みづらく、妙齢の御夫人が一人暮らしをなさっていたようです。
なんでも海外旅行好きで、特にロシアがお好みだったとか。

オールフローリングの1階は、お客様が集うサロンのようにしたかったのか、 
入り口は広く、すりガラスのはまったアンティーク風のドアの上にはロシアのトロイカの絵が描かれた黒いパネル(ホフロマ塗りというらしい)が飾られていました。
室内の壁にはイワン・クラムスコイというロシアの画家の「忘れえぬ女」の複製が飾ってありました。(昔レーピン展か何かで見たことがあったので、ずっとレーピンの作と思っていましたが)
玄関から吹き抜けの階段には緋色の絨毯がはめ込む形で敷き詰められゴージャス感を演出しておりました。(猫の毛がつきまくって掃除がとにかく大変だったのですが)
階段途中にある出窓にはやはりロシアのサモワールやら壺やらがありました。
収納もたっぷりあり、 2階の窓は天井まで高く、通常のカーテンサイズでは間に合わず特注するしかありませんでした。
庭は柘榴や梅、金柑があり、バラ、桜、フェニックスなど結構色々な木々があったように記憶しています。
ただ、芝生はほっておくとすぐ茫々になり、設置してあった芝刈り機をうまく使えず、返って芝をダメにしてしまいました。(慣れないことはやるもんじゃありません)
後に研修生に草むしりをしてもらったので、これが語り草になったようです。

何やら優雅な一軒家ではありましたが、一階をスタジオに、2階を自分の住居としたため、実質24時間臨戦態勢のようなものです。
まだ若かったので絶えず仕事も平気ではありましたが、優雅とは結局程遠い暮らしぶりでした。
今の方がなにかにつけてティータイムをとる隠居生活のようなもので、この家がちょっと懐かしいです。

私は平成14年に転居しましたが、2006年(平成18年)3月ごろまでのほぼ9年間、スタジオに使用させていただきました。



クラムスコイ作 「忘れえぬ女」