アンを探して Looking for Anne

「赤毛のアン」の島、プリンスエドワード島でオールロケ!第5回AFFF(シンガポール)で最優秀監督賞、グランプリを受賞!

音楽についてのご意見

2010年10月03日 | 皆様の声

宮平監督は奈良、綾部、美山、岡崎と上映挨拶をすませ、あとは熊本・人吉の上映と高知の上映に舞台挨拶に行きます。現在千葉、仙台、福島、盛岡、甲府、宮崎で上映中です。お見逃しなく!


ここでちょっと雰囲気をかえて。

日本中で映画「アンを探して」を観ていただいた方から多くの意見が寄せられブロガーのmetal_macさんにも触れていただきましたが、音楽についての素敵なご意見をご紹介したいと思います。

by Producer





映画感想文第2弾「音楽編」

 

あの映画全体を通して言えることは、基本的に自然の音を再現しようという姿勢が貫かれていたこと。現地ロケで拾った、風、雨、川、海の音を丹念に収録して、それを端々に使っていたのではなかったでしょうか。その音が映画のそこかしこに、主張するでもなく、喚(わめ)くでもなく、そっと忍び寄るように聞こえてい ました。映画から鮮やかに見聞できるのは、自然の中で織りなす人の動きと言葉です。これだけで、十分に説得力がありますが、さらに音楽が効果的に挿入されれば、言うことなし。まさに鬼に金棒です。音楽は、物語の展開にメリハリをつけ、情感を一気に高める効果をもたらしていました。

 

それも使われていた音楽は、派手な賑やかなものではありません。演奏スタイルも一本の楽器であったり、独奏であったり、せいぜい室内弦楽風であったり、小品がほとんどでした。映画の身の丈に合わせ、自然にマッチした音楽を、ここぞ、という場面に使っていました。のべつまくなしに、音楽が垂れ流されていたわけで はありません。しかも、あえてエレキなど電気楽器を遠ざけ、あくまでアコースティック・サウンドの素朴さ、単純さ、誠実さに重きを置いた音楽を中心に挿入されていました。当然、作品意図に相応しい音楽を厳選したとみられるだけに、これも見事な計算、というほかありません。

 

映画の冒頭シーン。プリンスエドワード島の空港待合室で、出迎えのマリ役のロザンナさんと杏里役の穂のかさんが出会って、マリの民宿に向かうシーンがありました。空撮による俯瞰風景、車を走らせながら過ぎ行く牧歌的な風景。これを背景に奏でられていたのがアコースティック・ギターによる曲でした。

 

当初、これを聞いて、僕は、このギターが、スラッキー(弦を緩めてチューニングする)ギターではないか?と思い、しばし聞き耳を立てました。スラッキ―・ギターは、ウクレレと並んで、僕の大好きな楽器です。何を隠そう、これはハワイ独特の奏法で、ハワイアンならではのノンビリ感、リラックス感を漂わせ、ユッタ リした気分にさせてくれる楽器です。同奏法の第一人者である山内雄喜さんが、この映画で弾いているのかと思い、最後のタイトルを確認したけど、全然違っていました(ガックリ)。現地のギタリストがつくり、弾いていた曲だったんですね。

 

曲そのものは、アルペジオを交えた軽快なテンポで、映画の導入部にうってつけでした。これから始まる物語に期待を感じさせたし、杏里の旅の始まりを予感させるものでした。何より、プリンスエドワード島の風景にピッタリマッチし、心地よい気分にさせてもくれました。

 

そして、夕暮れになって、隣のジェフさんが、庭でベンチに腰掛け、バスクラリネットを吹きます。これにはまいったね。ゾクゾクっときました。何の曲かは分かりませんでしたが、物悲しげな音色で、ジェフさんの心の奥底に仕舞っている心情をそのまま吐露しているように聞こえました。これをジッと聞いていると、誰も が優しくなれるのではないか、そんな気がしてくる、いい場面でしたね。

 

朝、ジェフ宅を訪ねてきた杏里に、ジェフは尋ねます。「昨晩は、うるさくなかったかね?」。杏里は、なんのことか分からず「エッ?」と聞き返します。ジェフが笑って見ています。このシーン、杏里が無愛想なため、ジェフが杏里の気を引こうと、わざと民宿の隣家に聞こえるように、大きな音を出して演奏して、それが 聞こえたかどうか杏里に確かめたのではなかったか、と思わせるカットでした。

 

これには伏線がありそうです。ジェフは、杏里に聞いてもらうために吹いたことは吹いたのですが、本当は、マリに聞いてもらいたかったのではないか、ということです。ジェフが自分自身に関心を持ってもらうべく、一生懸命吹きまくったのではなかったか、と推察しましたが、いかがでしょうか?

 

ジェフのバスクラリネットの演奏場面ひとつ語るだけでも、想像がグングン膨らみます。それだけ映画には、音楽の持つ意味が、重要不可欠です。あのシーンは、年寄りが道楽で吹いていただけ、と言われればそれまでですが、あの場面では、バスクラリネットを登場させることで、マリに対する恋慕の情はもとより、これま でジェフの歩んできた人生、ジェフの人間性までもが音楽を通じて見えて来ます。下手な台詞回しや通俗的な言葉より、バスクラリネット一本から発する音色によって、ジェフの心中が十分に伝わって来るから不思議です。

 

他にもダンスシーン、屋内外や心理描写の際に、音楽がタイミングよく使われていました。映画における音楽効果は、絶大なものがあります。音楽恐るべし!

 

僕は、この映画の全編貫き通したテーマをこう考えます。昔日の戦争は決して消えたわけではなく、現在も連綿と連なっている、という重いテーマを横軸に、その戦争が原因で、男女が出会い、相思相愛になりながら離れ離れになって、会いたい一心で孫に託した「尋ね人」を縦軸に、3世代にわたる女性の恋愛観を描き出し た、といっていいと思います。

 

主人公・杏里の表情の暗さ、プリンスエドワード島全体に覆う戦争の傷痕と相まって、雨季のドンヨリした薄暗さが、テーマに重厚感を与えた、という点で反戦映画と捉える向きもあるでしょう。しかし、この映画は、そんな大上段に振りかざした紋切型の枠に当て嵌めてはいけない、と考えた方が無難なようです。もっと当 たり前の泥臭い人間関係が大事だよ、と言っているような気がします。これは老若男女問いません。恋人同士、夫婦、親子、兄弟、地域住民の間それぞれに、本来持たなければいけないはずの、日本に失われつつある、人間的な隣人愛、優しさ、思いやり、人を信頼することが、何より必要だよ、と言いたかったのではないでしょう か?全ては、マリの民宿の「ピースローズの部屋」に詰め込まれているのです。

以上

 

甲斐市 konsan



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2 コメント

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自然の音 (bagiya)
2010-10-04 00:19:23
私も「音」のことで、宮平監督に聞いてみたいことがあったので、ここで失礼致しま後半「ピースローズの部屋」で、マリと杏里がハートで出会うシーンで、聞えてくる鳥の声は「英:Mourning Dove 仏:Tourterelle triste」という小鳩だと思うですが、あれは効果音として監督のチョイスなんどると思っているのですが、どうでしょう?

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あー。 (bagiya)
2010-10-04 00:22:23
ウイルス・チェック時間中に書き込んだもので、なんだかすごい誤字に抜けも! お許しを!
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