あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

君が君であること(SQ)

2007年02月10日 | 世界樹の迷宮関連





















<君が君であること>






「次はエリアキュア覚えます」

シャスは小柄な身体にしては大きなボーンメイスを握り締め、必死な顔付きで訴えて来た。
此処、エトリアで発見された大陸でも一番有名な「世界樹の迷宮」地下一階を、新米パーティは全て探索し臨んだ地下二階で待ち受けていたのは、状態異常を引き起こすモンスター達だった。
パーティの回復役であるメディックのシャスは、毒吹きアゲハの毒を回復出来ると思いリフレッシュを覚えた。
しかし、毒を受けたメンバーに呪文を唱えても一向に毒を回復出来ず、ショックを受けていた。
結局、レベルを上げ皆が毒吹きアゲハの毒や狂える角鹿の混乱を回避出来るようになるまで、パーティは地下二階を徘徊する事になったのだ。
地下二階のモンスター達を余裕で倒せる迄になったので地下三階に一度は降りたものの、戦力不足を痛感したパーティは再びレベルが上がるまで地下二階で探索を続ける事になった。
シャスがパーティのリーダーであるリュシロイにそう告白したのは、その矢先だった。
リュシロイは地下二階のf.o.eと呼ばれるモンスターの内の、怒れる野牛を倒したその傍にキャンプを張る事にした。
夜にはまだ間がある。
午後にも少し経験値を稼ぐ為、昼食を取る事にしたのだ。火を囲み、楽しく皆で簡単に食事をする。
そんな中、内気で大人しいシャスが急にリュシロイに向き直り叫んだのだ。
食事をしていたパーティ全員が目を丸くして、事の成り行きを見守っている。
リュシロイは途中だった食事の手を止め、皿を膝に置くとシャスに向き直った。
リュシロイはパラディンと呼ばれる聖騎士だ。
通常、国に仕えるパラディンとは異なり、リュシロイ等、放浪のパラディンは自らが仕える神の指示で動く。
モンクと呼ばれる闘う僧侶のような存在だ。
パーティメンバーでもあるアルケミストのリュサイアとは二卵性の双生児と聞いている。
真面目そうな顔は嫌味が無く、真剣な面持ちのシャスに真剣に応えようとしているのは明らかだった。
少し何かを考えていたかのようだが、意を決して口を開いた。

「エリアキュアを覚えてくれるのは有り難い。でも、問題は君の気持ちだ」

シャスは何を言われたか分からないかのように、目を瞬かせる。
レンジャーのシェラザードが手作りの矢を数え終わり食事に参加して来た。
アディールだけがもくもくと口を忙しく動かしている。
リュサイアはシャスを気遣うかのように、無言で見詰めている。
リュシロイは子供を諭すかのように話を続ける。

「君は自分が私達のお荷物だと思ってないかい?」

シャスは図星のようだった。恥ずかしそうに俯いてしまう。
パーティは世界樹の迷宮に降りてから数々の戦闘をこなして来た。
しかし戦闘でシャスがする事は、皆の邪魔にならないように攻撃を避け、当たらないように防御する事だった。
キュアしか覚えていない彼女は地下二階に降りてリフレッシュの呪文が必要だと判断し、必死に覚えた。
しかし覚えた呪文では、全く状態異常を回復させる事が出来なかったのだ。
アディールに「レベルが上がれば、何でも効くようになるさ」と元気付けられていたが、シャスは皆が見ていない処で、いつも大きな溜息を吐いていた。
自分は皆の役に立っているのかと常に不安だった。
f.o.eとの戦闘以外、熟練したパーティメンバーは中々傷を負う事は無かった。
それがシャスの自信喪失にもつながっていたのだ。
キュアは単体回復でしかない。
エリアキュアはパーティ全体を小回復する事が出来るので、これから巡り会うだろうボス戦には確かに必須だった。

「シャス、俺達がいるのはまだ地下二階なんだぜ。これから更に深く潜る。その中、君の力は絶対に必要になるんだ。そう、エリキュアを覚え、医術防御を覚え、もしかしたらリザレクションをも覚えて行くだろう」

シェラザードが自分の分の食事を更に注ぎ、スプーンを振りながら言った。
その続きをパーティの斬り込み役でもあるソードマン、アディールが言う。屈託の無い笑顔は子供のようだ。

「君がいるからこそ、俺は何の心配もなく敵へ突っ込めるんだぜ?」

そしてシャスは気付いていない。世界樹の迷宮に降りていると言うのに、見た事の無い花々を嬉しそうに見ては観察して微笑む彼女の笑顔が、何よりパーティメンバー4人の殺伐とした心を癒していると言う事に。

「確実に君は強くなっている。自信を持つんだ」

リュシロイが皆の気持ちを代弁するかのように元気付けると、優しそうに微笑んだ。

「肩の力、少し抜け」

そんなリュシロイの弟であるリュサイアがぽつりと呟く。
アルケミストという特殊な職業柄か、無口で「ぶっきら棒」な物言いだが、既にシャスはリュサイアが深い優しさを持って話す事を知っている。
皆が自分を気遣ってくれているのが伝わって来た。
シャスは初めてこのパーティ「アシュトレイ」に入って良かったと思った。
最初は兄、セシルがアシュトレイに入る筈だった。しかしセシルは何故か断ったのだ。
そして迎えに来たシェラザードと後ろに居たシャスに言ったのだ。「シャス、お前が行くんだ」と。
年子の兄セシルは二人の住む街の施薬院でも有名なメディックだった。
代々メディックのシャスの家庭でも、セシル以上の実力の持ち主は居ないだろうと言われた。それ程セシルの腕は確かだった。
その噂を聞き付け数多くのギルドがセシルをパーティに誘いに家を訪れた。しかしセシルは一向に首を縦に振らなかった。
シェラザードはセシルの昔からの知り合いだと後から聞いた。
街を離れるシェラザードにセシルは妹のシャスを推薦したのだ。
世界でも有名な世界樹の迷宮があるエトリアに行くと言うのだ。危険な冒険になるのは明らかだった。
シェラザードはそんな危険な旅に、少女であり施薬院に入ったばかりのシャスを連れては行けないと断った。
しかしセシルは代わりにシャスを連れて行くように逆にシェラザードを説得さえして来た。
押し切られるようにシャスはシェラザードと共に行く事になったのだ。
シャスは自分を見詰める男達、パーティメンバーに深々と頭を下げた。

「これからも宜しくお願い致します!」

シャスの兄セシルだけは知っていた。自分の愛する妹の実力が自分の比ではない事を。
世界樹の迷宮奥深く、メディックでも中々覚えられないリザレクションをシャスは唱え、パーティを最後の階まで導くだろう。
彼女さえ居れば、パーティは最後の迷宮の主とさえ渡り合えるだろう。
セシルは満足気に遥かエトリアの方角を見詰め手を合わせ妹の無事を祈った。


<了>

















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