Jaew

Thai Movie-Jaew 1/9
タイで家にお手伝いさんがいる人なら本当に吹き出してしまうシーンがいくつもあるコメディー・アクション。バンコクの共働きの家族は住み込みのお手伝いさんの協力抜きには生活自体も成り立たないし、もし運悪く折り合いが悪くなると農薬入りのソムタムなど朝飯前で、もうこれは命の危険に晒される。ただ本当に運良く気が合うお手伝いさんと巡り合えるとこれは主従とかを超えてイサーン（タイ東北部）全体の労働ネットワークにアクセスできるとか、ガテン系の修理など直ぐに手配してくれ生活インフラを支えてくれる。

イサーンというと貧農とか出稼ぎとか、負のイメージが優先するが、本当に困ったときはナイハン（旦那）のために驚くような威力を発揮してくれる。まるで黒沢明の「7人の侍」の「農民は叩けばなんでもでてくる」という台詞通りに武器はおろか、国家や企業のコンフィデンシャルにアクセスできるイサーン人脈があるので普段のお互いの敬意がイザというときに役立つというもの。この映画の発想の素晴らしさはこうした落ちこぼれお手伝いさんを007のようにスパイに仕立てて国家転覆を図る組織の仲間に利用するのだが、最後に勝つのはイサーン出身者の労働者軍団でメデタシ、メデタシ。

タイのコメディ映画の特徴なのかエンディングが締まらないが、いつもお手伝いさんの視線でのスクリプトは見事。いくら画像でセンサーをしてもタバコやお酒を飲んでいるのは一目瞭然だし、雇い主の旦那との関係も見事な位に対等である。題名の「Jaew」は透明になるという意味とイサーン地方のモチ米に唐辛子汁を付けたものだし、イサーン語ネィティブじゃないと理解できないが、チエンマイでは北部なまりを使い分けまさに八面六臂。

いつからか日系駐在員の間では日本好きな大人しいお手伝いさんを「アヤさん」と呼んで手なずけ、60年代のマダムは昼間はアートコーヒーや大丸に出かけて超セレブなつまらない生活を享受していたが、映画のようにお手伝い新世代だと派手なマダムの真っ赤なバタフライなど洗濯物で見つけようならコンドミアム中に一時間もしないで広まることになる。そして「あそこのマダムは欲求不満」とか「ご主人はED」「マダムと運転手が・・」に発展するのも翌日の話。Victoria Secretもイサーンの好奇心の前には適うはずもない。

Pornchita Na Songkla
映画の主人公のPornchita Na Songklaは本当に魅力的な典型的イサーン美人でVogueの表紙を飾ったモデルも彼女のタイプ。頭が良くても高等教育を受ける機会のなかったお手伝いさんにしてみれば、映画のように命を張って諜報員の役職を全うするに違いない。こうしたイサーン気質の特殊性はクーデターで追われたタクシン元首相がいまだにタイ国内で影響を保っているのがいい例で、ナイハーン・タクシンと大票田イサーンは有権者というより家族的団結の成せる技で、こうした幻想に近いマジックをまだかけられる続けるタクシンの天才的政治家所以でタイの今後の政治を左右するのはイーサンの心意気一つかもしれない。