Vばら 

ある少女漫画を元に、エッセーと創作を書きました。原作者様および出版社とは一切関係はありません。

中野京子さんの アントワネットに関する最新刊

2016-10-09 20:15:42 | つぶやき

 今月25日から東京で始まる「マリー・アントワネット展」に向けて、出展作品を題材に中野京子さんが新著を発表。題名は「美術品でたどるマリー・アントワネットの生涯」。

 アントワネットの生涯を、誕生から処刑まで全11章にわたり、明快で簡潔な表現で著わしている。最終章以外の各章の最後に「偶然・暗転・想定外」と題して王妃の運命を決めたコラムを収録。この3つのキーワードがあれば、アントワネットの人生はほぼ説明がつくのかもしれない。

 本当ならルイ16世に嫁ぐのは、アントワネットのすぐ上の姉である十女のマリア・カロリーネだった。しかしナポリ王に嫁ぐ予定の九女が挙式直前に病死したため、代理としてカロリーネがナポリに嫁ぎ、結果としてアントワネットがフランスに行くこととなる。この番狂わせから、すべての不幸が始まった。もしアントワネットがもっと小国に嫁していたら、波風はあるものの天寿を全うできたかもしれない。まさに「偶然・暗転・想定外」である。

 幼いころから宮殿内で身内に囲まれて何不自由なく育ってきたため、他人との関わり方をほとんど学んでこなかった。だからたった1人で14歳で異国の王家に嫁いで、いきなりその国のファーストレディになったら、誰の言うことを信じていいかわからないのが当たり前。結果として耳の痛いことを言う年長者を遠ざけ排斥し、自分の美を讃え一緒に楽しく遊んでくれる居心地の良い仲間だけを周りに置き、自分の楽しみに国費を使ったので人々の憎しみを膨らませていく。退屈極まる儀式は、人に相談せずさっさと廃止。オールドミスのまま、宮殿にいつまでも住むルイ15世の3人の娘(アントワネットの叔母に当たる)を軽蔑し冷淡に扱う。無邪気な残酷さがそこかしこに。無理もない。でもそれってアントワネットが特別だからではなく、いつの時代でも若者なら彼女のような行動を取っても別に不思議ではないように思える。

 私自身ずいぶんいい年になった。若いころは「根回しなんて…ああ、嫌だな。」と思った。しかしシステムを変えたり、新しい事を円滑に進めていきたい場合、厳しい意見を持つ人の声にも耳を傾ける大切さを失敗を繰り返す中で学んだ。振り返れば自分もアントワネットと同じような、あと先を顧みない行動をたくさんして人を傷つけ悲しませた。幸い私は一庶民で、贅沢三昧するようなお金がなかったので現在まで生きているけれど、もしあの時代アントワネットと似た育ちを経て、同じ立場に置かれたら、彼女のような行動を取ったと思う。

 コンシェルジュリに入れられてから約2ヶ月後、アントワネットに対する裁判が開かれた。何とか彼女に自分の非を認めさせようとする裁判官の誘導尋問を、言葉を選んで論理的に堂々と反論するアントワネット。番狂わせで嫁ぐ前に、ウィーンでもう少し時間をかけて帝王学をたたき込んでおいたら…と言ってみても仕方ない。人間は実際に痛い目に遭わないと、何かを学び取れないのかもしれない。

 この本はタイトルにあるように、王妃ゆかりの品の写真を随所に挿入している。数ある写真の中で、一番印象に残ったのは、華やかなりし時代のものではなく、処刑台に上がる時脱げてしまったとされる片方の靴。靴の中敷きには「王妃マリー・アントワネットが死刑台に上がった忌まわしい日に履いていた短靴。この靴は、王妃が脱ぎ落としてしまったまさにその時、ある人物に拾われて、すぐさまゲルノン=ランヴィル伯爵殿に購入された。」と書いてある。実物を目にしたら、胸が締めつけられる想いに駆られる気がする。

 読んでくださり、どうもありがとうございます。



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