厳しい任務を離れ、オスカルがひと息つくとき---手に取るのはヴァイオリン。アンドレがそばで聞いていることもあった。二人にとってしばし心を休めることができる幸せな時間だったろう。アンドレ自身は楽器を嗜むことはなかったかもしれないが、オスカルがその時選んで弾く曲を聞けば、彼女の心理状態を読むことができたのでは?出動前夜、アンドレが自室にやってくるのを待つ間、オスカルは一人静かにヴァイオリンを弾いていた。
今でこそ、ピアノもヴァイオリンも男女関係なく演奏されているが、中世から近世にかけて、ピアノ(当時フランスではクラヴサンと呼ばれていた)は女性が、ヴァイオリンは男性が弾くものと線引きがあったのだろうか?
次はマリー・アントワネットが好んだプチ・トリアノンのサロン。クラヴサンとハープが置いてある。とても趣味の良いインテリアはアントワネットならでは。ここでごく少数のお気に入りの貴族を招いて、ホームコンサートを開いたのだろう。警備しながらオスカルとアンドレも聞いただろうか?アントワネットは人目を忍んで、フェルゼンとこの部屋で会っていただろうか?
クラヴサンを弾く女性の絵。
ハープを弾く少女たち。
クラヴサンを弾く女性と、ヴァイオリンを奏でる男性。
つい熱がこもり、こんなことも----。
モーツァルト一家。彼はチェンバロ(ドイツ語です)で作曲していた。
次の絵はルイ15世の娘、アンリエット王女。手にしているのはヴィオラ・ダ・ガンバ。顎に乗せないで弾くこの楽器は、女性でも当時、愛好する人がいたのだろう。
ではなぜ、女性はヴァイオリンを弾かなかったのか?理由は次のようである。(以下引用)
ヴァイオリンはダンスの伴奏をする平民の楽器というイメージが強く、また貴族の女性がヴァイオリンを肩に構える姿勢ははしたなく、タブーとされたようです。
なるほど。けれどオスカルは男の子として育てられたから、姉君たちのようにクラブサンを弾くことはなく(アニばらでは弾いていたけれど)、男性が嗜むヴァイオリンを自分で選んだか、両親あるいは家庭教師に勧められ、レッスンを受けたのだろう。
出動前夜、夕食前にアンドレに「あとで 私の部屋へ」と静かに呟くオスカル。夕食後、オスカルの部屋に向かうため階段を上るアンドレの頭上には、驚きを示す4本の短い線が描かれている。
いったいアンドレは何に驚いたのか?その夜、オスカルが奏でていたのは常日頃よく耳にしていた曲ではなく、遠い昔、まだ二人が子どもだったころ、オスカルが弾いていた穏やかな懐かしいモーツァルトの曲だったろうか?台詞がないので、読者の想像に委ねられている。オスカルにしてはちょっと緩やかな曲。だからアンドレは「おまえの手には もっとダイナミックな曲がふさわしい」と語る。このあたり、アンドレはなかなか鋭いセンスをしている。
アンドレが来るまでの間、心を鎮めるにはヴァイオリンを弾くのが一番---とオスカルは考えただろうか?人生で最後に弾いたヴァイオリン。革命の嵐の前の、つかの間の幸せなひと時。すぐそばに愛する人がいることに気づくのが、遅すぎなくてよかった。
読んでくださり、ありがとうございます。
チェンバロ好きの友人と、コンサートへ出掛けた事を思い出しました。
同じ鍵盤で演奏するピアノとは、全く違う音色で、バロックの世界です。
私は、オスカルには、モーツアルトがお似合いのように、思います。
そんな風に思うのは、たぶん、私だけでしょう。
優雅で、奥深く、品がある。
「室内では、そんな曲を弾いてほしいなぁ」と、思います。
あの時代、オスカルはどんな曲を弾いていたのでしょうね。アンドレには、モーツァルトを弾くオスカルは物足りなかったようで---。では誰のどんな曲だったらよかったんだろう?
チェンバロって、いかにもバロックorロココって感じがしますよね。優雅で優しい響き。しばし現実を忘れてしまいそう。きっとアントワネットも、プチ・トリアノンで、フランスに何が起きているか知らぬまま、別世界で暮らしていたのでしょう。
>アンドレは軍人として指揮をとるオスカルの姿が一番好きだったのではと思っています。
きっとそうですよね。だからアンドレは息を引き取る直前も「ブロンドの髪 ひるがえし---」とオスカルが軍隊を指揮する姿を遠目で見ていて、その美しさを讃えた歌を口づさんだのだと思います。
こんなブログですが、よろしければ今後もどうかよろしくお願いいたします。