万城目のブログ 大作戦

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天使轟臨~Angels Flying in the Supercell~第五話 そのいち

2013-01-15 | 企画・特集

Wrestle Angels PBeM

Episode1 天使轟臨 ~Angels Flying in the Supercell~

〔ストーリー〕

西暦20X1年、冬。

運命の悪戯が数多の邂逅を生み、神々の遊戯が無限の苦悩を閃かす。

何もかも得ることなどできはしない。

何かを得るためには、何かを犠牲にしなくてはならないのだ。

ある女は言う、過去を捨てなくては未来を得ることはかなわぬ、と。

またある女は言った、過去の己あればこそ、未来を得られるのだと。

どうあれ人は選ばざるをえない、己のゆくべき道を。

その先が頂にいたる道か、奈落の底につづく断崖か、それは誰も知りえない。

だとすれば、その選択のよりどころは。

己の心のなかにしか、ないのかもしれぬ。


“――理沙子、私はね”

“――プロレスが、大好きなんだ”


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■ジャッジメント・セブン SIDE■
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◇◆◇ 1 ◇◆◇


▼日本 東京都江東区有明 タイタン有明 PantherGymオフィス


「プロレスが興行である以上は――」

《南 利美》がいった。

「――まず、観客が望むものを提供しなければならないわ」

それはそうです、と《内田 希》は同意した。

「ただの競技ならまだしも、プロレスは……そうではありませんし」

競技であったとしても同じことよ、と南はつづける。

「しかし、私たちは奉仕者ではなく、」

支配者でなければならない、と南は説く。

「チケット代、PPV代よりも更に上回るものを、見せつけなければならないのよ」
「……容易なことではありませんね」
「当然よ。それができているレスラーなんて、まぁ、国内では五本の指に足りるていど」
「挙げていただいても?」
「そうね、まずは私」
「…………」

真っ先に自分を挙げるあたりは、南利美の真骨頂というしかない。

「それから、お龍さん(サンダー龍子)、麗華(ビューティ市ヶ谷)、それと……祐希子(マイティ祐希子)くらいかしらね」
「……手厳しい評価ですね」
「あぁ、貴方も悪くはないわ。一流のレスラーには違いないし」

ただ超一流ではない、というだけのこと。
おそれいった自信だが、それもまんざら的外れではない。

(……祭典での試合は、まさにそうだった)

先の祭典“Athena Exclamation X”のメイン戦における《武藤 めぐみ》との二冠戦は、まさにリングを、そして会場をも“支配する”ものであった。
もとより南は実力者ではあったが、これまでは祐希子や市ヶ谷らのサポートに回っていたイメージが強い。
それが、【ジャッジメント・セブン】に加担してシングルプレイヤーとして起つやいなや、その存在感は倍加したといっていい。
内田が上戸とのタッグを解消、J7についたのも、南の影響があったことは否定できぬ。
タッグ屋“ジューシーペア”としては高評価を得てきたが、それでは飽き足らなくなってきていたのは事実。
もっとも、内田の転身の理由は、そればかりではないけれども。

「フフッ。相棒に悪い、と思ってる?」
「いえ。……別に」
「そう。まぁ、どうでもいいけれど」
「…………」

上戸に、不満があったわけではない。
……いや、まぁ、皆無ではなかったが。
今こうして反体制ポジションについたのは、己の殻を破るため、といってさしつかえない。

「私の解釈ですが」

ジャッジメント・セブンの、本来の存在価値は……

「……祐希子さんが欠場している間の、話題づくりだったのでは?」
「ま、そうかも知れないわね」

新女の、いや日本女子プロレス界のトップに立つ、マイティ祐希子。
ここ最近、故障ということで欠場を続けており、来年正月の新日本ドーム大会で復帰予定。
もっとも、その間に映画出演など芸能活動も活発におこなっており、ケガというのは表向きではないか、という声もある。

「新女ならありそうな話だけど。……ま、無傷のプロレスラーなんていないわ」

長くやっていれば、大なり小なり故障はある。
祐希子の欠場も、オーバーホールと考えれば納得はいく。
そして、その間の話題を保つための布石として……

(ジャッジメント・セブンが作られた……か)

まんざら信憑性がないでもない。
だとすれば、

(祐希子の復帰と共に、J7は消滅……あるいは、リニューアル)

それが、団体側の思惑かもしれなかった。

「ま、(越後)しのぶや斉藤(彰子)も、十分“スター気分”は味わえたでしょ」

今後しばらくは、祐希子と南によるベルト争奪を、メインストーリーとしていきたいのかもしれない。
もっとも、そのとおりに行くかどうかは、さだかではないのだ。

(つまるところは……)

新女にとって、他団体との
“共存共栄”
などは、論ずるに値しない。
あわよくばすべてひねり潰し、使えそうなレスラーのみを拾い上げ、シェアを独占したいに決まっているのだ。
まして、“世界戦略”を掲げるならば、なおさらのこと。

(その点、真っ先に狙われるのは……)

東女? いや、あそこの社長は、なかなか食えない。
最近、“あの”《井上 霧子》が加担しているとあっては、なおのこと。
WARS? なるほど、トップの龍子は、考えるより先に行動するタイプ……
しかし、いまやあの“女狐”がそばにいるとあっては、そう簡単には崩せまい。
その他の、吹けば飛ぶような泡沫団体は問題外とすれば……

やはり、JWI。
いくら《小川 ひかる》らがついていても、肝心の市ヶ谷がアレでは、どうにもなるまい。

(…………)

南利美はかぶりを振った。
感傷的になっている暇など、ありはしない。
何かを手に入れるためには……

(……何かを、失う覚悟がいる)

そう、たとえば、年来の友ですらも。
人の心は、いちど離れてしまえば……
二度とは結びつかぬのが、つねなのだとしても。

▼日本 東京都江東区有明 タイタン有明 PantherGym道場

「はぁ~い、おひさ。元気みたいね~~え?」
「……はぁ」

《神楽 紫苑》の笑顔とは裏腹に、《成瀬 唯》はしかめっ面で応じた。

「なぁに~? せっかく懐かしい顔が会いにきてあげたのに、辛気臭い顔してぇ~」
「……できれば思い出のままにしときかったんですけど」
「え~? そんなつれないこと言わないでよ~~」

神楽と成瀬はもともと、【ワールド女子プロレス】の一員であった。
が、成瀬は夏ごろに離脱。
神楽もまた、ワールド女子の実質的消滅によって、フリーランスの身となった。
そして今……

「よろしく頼むわね~。同じジャスティス・イレブンの一員として♪」
「そうそう、よろしゅう……って、ジャッジメント・セブンですから! ジャスティスでもイレブンでもないですしっ」
「そうだっけ? まぁいいじゃな~い」
「…………」

どうもこの人は苦手や、と成瀬唯は思った。
こうしてまた、同じ釜の飯を食うことになるとは思わなかったが……

「な~に? 最近、新顔が増えてきて、影が薄くなってるとか~?」
「っ、ほっといてくださいっ」

当初は、越後や斉藤など無骨なレスラーがメインだったJ7。
そのため、しゃべりの達者な成瀬は重宝されていた。
が、このところ、南や内田などマイクもできる面々が参加してきたため、相対的に彼女の立場は弱くなりつつある。
そこへきて、この神楽の加入。
彼女もまた、なかなかマイクは悪くない。
成瀬が浮かぬ顔なのは、何も先輩が来たから、というだけではないのだ。

「あ、そういや、あの子の件はありがとね~~。おかげで、ちょっとは立ち直ったみたいだし」
「……あぁ、アレですか」

あの子とは、〈安宅 留美〉。
神楽の従妹にあたり、【VT-X】に所属する新人レスラーであった。
が、いろいろあって宙ぶらりんの立場となって迷走していたところ、神楽に頼まれた成瀬が、J7へ勧誘したのである。

「元々、アノ子はけっこうオモロいな~て思うてましたから。案の定、けっこうハマりましたし」
「ま~、もともと、団体に縛られるようなタマじゃないからね」

もっとも、“初陣”以降は、J7とは別行動をとることが多いらしいが。
どだい、集団行動ができないタイプとみえる。

「カネにはうるさいんで、もっと大金積まれないかぎりはここにおるんちゃいますか」
「でしょうね~~。ホント、カネには細かいから」

先日は、そのカネに目がくらんだために大恥をかき、あやうくレスラー廃業の憂き目を見たのだけれど。

「でも、ああいうのオイシイですやん。開き直ったもん勝ちですよ」
「ま~ね~。さ~て、じゃあ、お礼におね~さんが一丁揉んであげる♪」
「えぇ~~……」

成瀬唯の憂い顔は、ますます深くなる一方のようであった……


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■寿千歌軍団 SIDE■
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◇◆◇ 1 ◇◆◇


<< マット界のキーマンに聞く! 西の雄・寿千歌嬢の真意、そして野望とは!? >>


――本日はよろしくお願いします。

寿千歌:えぇ、こちらこそよろしく。

――いまや、マット界最大の重要人物と言っても過言ではない寿オーナーに、今後の展望をお聞きします。

寿:えぇ、なんでもお聞きください。

――《ライラ神威》選手ひきいる【苛無威軍団】が猛威をふるっていますが、ライラ選手以外の正体は不明です(註:正しく言えば、ライラ神威自身、本名も不明なのだが)。
  いったい彼女たちは何者なんでしょう?

寿:さぁ、それはライラさんに聞いて頂かないと。
  わたくしは、彼女が連れてきたファイターを受け入れているだけですから。

――なるほど、器の大きさが段違いということですね。
  ところで、寿グループ傘下にはいった【太平洋女子プロレス】は、再旗揚げ戦が迫っています。

寿:かのスペル・エストレージャ(スーパースター)《ブレード上原》が興した団体ですから、可能な限りサポートさせて頂きたいと思っていますわ。

――【ワールド女子プロレス】は今後、どうなるのでしょうか。

寿:本来なら、太平洋女子同様、資金援助をして継続的に興行を続けたかったのですけれど。
  ご存じのように、すくなくない選手が離脱してしまいました。
  このままでは独立団体としては維持できませんので、休眠状態、ととっていただいて結構ですわ。

――雑誌でいえば、休刊、ということでしょうか。

寿:そんなところですわね。

――なるほど(休刊ほぼイコール廃刊なのだけれど)。
  では、元ワールド女子の選手の処遇は?

寿:【IWJ】(注01)の興行に出てもらいますわ。
  もちろん、実力がともなわない場合は、その限りではありませんが。

 注01:正式名称はIndependent West Japan Association。西日本プロレス連合とでも称すべきか。ワールド女子・太平洋女子を吸収した寿千歌一派の総称。

――ワールドを離脱した選手たちに対しては、どんな感情をお持ちで?

寿:とくにありませんわ。彼女たちには彼女たちの人生があるでしょうから、こちらがとやかくいうところではありませんもの。

――ウワサでは《神楽 紫苑》選手や〈Σリア〉選手にたいしては、制裁を加えようとしているとも聞きますが。

寿:まぁ! とんだデマですわ。そんなはずはありません(微笑)。

――では、いずれ彼女たちがIWJのリングに上がる可能性も?

寿:もちろん歓迎しますわ。フフフ。

――わかりました。

(中略)

――ところで、最後にひとつよろしいでしょうか?

寿:えぇどうぞ、なんでもお答えいたしましょう。

――IWJという名称ですが、【JWI】のパクリ…いえ、パロディではないかという意見がありますが……

寿:(血相を変えて)な、なななな、何を言っていますの! あんな下品下劣な、市ヶ谷麗華ごときの団体に影響を受けたりしているはずがないでしょう!? 失礼にもほどがありますわ!! アトラスさん、やっておしまいなさいっ!

――ちょ!? おわあああああーーー!?

(〈アトラス・カムイ〉が現れ、記者をベアハッグでギリギリと痛めつける。悶絶しながらもどこか嬉しそうな気がするのは、アトラスのバストの感触ゆえであろうか)

 ――――『週刊ギブアップ No.8』より


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■寿ワールド女子プロレス SIDE■
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◇◆◇ 1 ◇◆◇


▼アメリカ ジョージア州アトランタ オメガ・コロシアム


【WWCA】のPPV大会、その控え室――

「そっか、元気にやってるんだ」

ケータイに届いたメールを一読し、《ファルコン香月》は、目を細めた。

「メール? 誰から?」
「ケイちゃんから」
「あぁ、あの子ね。……うまくやってるのかしら?」

《コンドル池上》は心配げに空を見上げた。
もとより控え室から、まして遥かな日本の空がうかがえるはずもないのだけれど。

〈高倉 景〉。
彼女たちが主戦場としていた【ワールド女子プロレス】の若手レスラー……であった。
過去形としたのは、今やワールド女子は実質消滅し、寿グループ傘下の一ユニットのような状態になっているためである。
香月にとっては昔馴染みであり、池上にとっても、彼女のリング復帰にあたって大きな役割を果たし――いや、そうでもなかったが、何の縁もない、という仲ではない――ただの知り合い、と言ってしまうのは、いささか薄情。
池上と高倉の関係は、まぁだいたいそんな感じであった。

「大丈夫だと思うよ。あの子、ああ見えて結構……えっと……結構……えーーっと……そう、鈍感だから」
「……それ、フォローになってないわよ」

確かに、高倉は寿一派とはもともと交流があった。
それを思えば、そう無碍にはされていないと思うのだけれども……

「だってほら、こんなに呑気なメール送ってくるんだから」
「? どれどれ……」


 拝啓 香奈姉ちゃん 

 ただいま、アタシたちは絶賛特訓中です!
 すっごく、充実した日々を送ってます!
 けっこう、シンドいですけど、楽しい毎日です!
 てかもう、ワールド女子のことなんて、全然思い出さないし!!


「…………」
「ね、お気楽でしょ?」
「え、えぇ……そう、ね」

池上はかぶりを振った。
高倉景に幸あれ。
願わくば、あぁ、命あらんことを。

「さ。……そろそろ、行くわよ」
「えぇ。今度こそ、ベルトを手土産に帰らないとね」

彼女たちがこれから相対するのは、なまなかの敵手ではない。
何より以前、手痛い目に遭わされたチーム。

「スナイパーシスターズ……今度は負けない!」

WWCAタッグ王座をかけた一戦。
同じ轍を踏む気はさらさらなかった。

「うんっ。ケイちゃんに、ベルト、見せてあげたいもんね」
「……そう、ね」

よしんばベルトを奪取したとて。
果たしてそれを、高倉は見ることが出来るであろうか?

それは、プロレスの神のほかは、知る由もないことなのであった。


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■フリー(ヒール軍団) SIDE■
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◇◆◇ 1 ◇◆◇


▼日本 東京都新宿区 BAR『Dead End』


「ヒールとは何だと思います?」
「いきなりだな。……そんなに深く考えたこたァねぇよ」

《フレイア鏡》の問いかけに、《ガルム小鳥遊》は鼻を鳴らして応じた。

「あら、国内三大ヒールと呼ばれるほどのお人が?」
「別に、意識してやってるわけでもないしな。言ってみりゃ、自然のなりゆきってやつだ」
「フフッ、なるほど。確かに貴方や朝比奈さんは、正統派で売るガラではありませんし」
「……自分は違う、ってか?」
「そんなつもりはありませんけど。……たとえば、そう、身近なところでは、桃子ちゃん」
「アイツがどうしたって?」
「なかなか、頑張っていますよ。彼女なりにね」
「フン。……ま、破門にはしなくてすみそうだな」

桃子……〈古城 桃子〉。
人もあろうに、小鳥遊らヒール軍団に弟子入りを志願してきた、物好きな少女。
あの気弱そうな様子からして、とうていモノになりそうにはなかったが……

「案外、根性はあったようですわね」
「ま、そういうこったろうよ」

たとえレスラーにはなれなくとも、厳しい訓練を体験することは無駄ではなかろう。
ケガをしないていどに、身体を鍛えさせてみよう……
それくらいのテンションで請合った弟子入りだったが、存外しぶとく粘り、デビューにこぎつけてみせた。

「今は朝比奈とやってるんだったな?」
「えぇ。実力相応に、小悪党っぽく頑張っていますわ」

現在、桃子は“闇堕ちティンカー・ベル”〈MOMOKA〉と称し、【WARS】内部の反体制軍団・【柳生衆】の一員として活躍している。
もっとも、まだまだ一人前には程遠い。
WARSの体制側に立つ鏡とは対立関係にあるわけだが、まだまだ眼中にない、というあつかいなのは是非もなかろう。

「彼女の場合、どう見てもヒール向きではないでしょう?」
「まぁな。……だが、本人がやりたがってるんだから、仕方あるまいよ」

小鳥遊や朝比奈のように、どう考えても正統派、ベビーフェイス(善玉)とはいかない風貌なら知らず、可愛らしいといっていい外見の桃子が、無理にヒールを目指す必要はない。
もっとも、特定の団体に所属していない現状においては、“努力する新人”のままでは上がるリングも限られよう。

「まして、意地悪な誰かさんが仕切るリングじゃあな」

笑って答えない、意地悪な誰かさん。
WARSのGMに就任した鏡は強権をふるい、柳生衆に出場停止処分を下している。
フリー参戦の選手にとっては、イコール収入減に他ならない。

「しかし、例のジャッジメントなんとかとやり合うんだろ? 駒が足りないんじゃねぇのか」
「えぇ。だからこうして、接待しているというわけで」
「そりゃ豪儀だ。……氷川のヤツにもコナかけてるらしいな」
「フフッ。お友達価格でお願いできますから」
「……世知辛い話だな」

ところで、と鏡が話を戻す。

「プロレス興行において、ベビーとヒールの対立関係は明解であるべきだと思いますわ」
「ま、そうだろうな。客もどっちを応援していいか、わかりやすい」
「えぇ。でも最近は、そのあたりが曖昧になっていますわね」
「そりゃあそうだろうな。どこぞの大物ヒールが体制側のトップに立ったりしてるくらいだ」
「……耳が痛いですわね」

鏡は体制側についたとはいえ、フェイスターン(善玉に転向)したわけではない。

「ま、それはさておき」

とあっさり自分のことはタナにあげ、

「そうした明快な対立構造がなくなっている……と、嘆くのは御老体にお任せするとして」

ないのならば。
自分たちの手で、作り出せばいいだけのこと。

「はぁん……またぞろ、悪巧みってわけか」
「フッフフフ……人聞きが悪いですね」

フレイア鏡は、グラス片手に微笑んだ。

(ま、コイツと組んでるあいだは……)

退屈だけは無縁みたいだな、とガルム小鳥遊はほくそ笑んだ。


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■フリー(無所属) SIDE■
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◇◆◇ 1 ◇◆◇


▼日本 秋田県本荘市 本荘市総合体育館


東北地方を中心に活動するプロレス団体【ゆきかぜプロレス】。
覆面レスラー《グレート・ハヤテ》が興したルチャ系団体である。
興行がおこなわれる体育館の入り口には、グッズ以外にも雑多な売店が並び、ちょっとした縁日といった風情。

(――なんや、懐かしいな)

楽しげに売店を冷やかす客たちを横目に、〈紫熊 理亜〉はひとりごちた。
“クイーン・サドンデス”〈Σリア〉という剣呑な名で呼ばれる女子プロレスラーだが、平素は美貌の女性である。
以前(といってもほんのちょっと前だが)彼女が属していた【ワールド女子プロレス】でも、興行の前はこんな風な、アットホームな雰囲気が漂っていたものである。
それはもう失われてしまって、二度とは戻ってこない日々であるのだけれど。


▼日本 大阪府大阪市 ワールド女子プロレス寮


……すこし前の出来事


「遅いで、ヤエさん」
「そうそうっ。もう準備万端ですよ!」
「……ノリノリだな、お前ら」

〈八重樫 香澄〉は頭痛をこらえるように、頭を押さえた。
それは同期である理亜と、〈高倉 景〉の異様な風体を見たためであろう。
前者はお好み焼き、後者はタコ焼きをイメージしたマスクをかぶり、サンドイッチマンよろしくポスターを前後に下げている。
もとより、伊達や酔狂でこんな格好をしているわけではない。
間近にせまったワールド女子の大会において、少しでも集客を増やすための販促活動にほかならないのだ。

「……それにしても、もっとイイ方法はねーのかよ」
「しゃあないやん。マスクかぶれるだけマシと思わな」
「……そりゃ、そうだが」

ボヤきつつ、串カツをモチーフにしたマスクをかぶる八重樫。

「いいですね~ヤエさん! これで試合に勝てますよ! カツだけに!(ドヤ顔で)」
「(無視して)おい、チラシこれでいいのか?」
「ヒイッ、スルー!?」
「そやね。あと、このアメちゃんも」
「はぁ? 何だコレ」
「ただチラシ渡してもしゃーないやん?」
「なるほど、アメとムチってわけですね! お客様にはアメ! アタシにはムチ! ……って、なんでやねーーん!」
「(流して)……ほな、行こうか」
「そうだな。オレたちもヒマじゃないし」
「……む、ムチより、ムシのほうがキッツいわァ……」

かくして、
《クイーン・お好み焼き》
《タコ焼きケイ》
《KUSHI-KATSU》
の三人は大阪の街に繰り出し、道行く人にアメちゃんやチラシを配りつつ、時おり思い出したように乱闘を繰り広げたりして、必死に大会アピールに励んだ。
流石に最初とちと恥ずかしかったが、子供たちから歓声を浴びたり、おばちゃんたちに励まされたりするのは、なかなか楽しい経験だった。
ついテンションが上がって、タコ焼きケイに本気のローキックを決めたりしてしまったのは、ご愛嬌。

「堪忍な、あんまりタコ焼きぽっかったんで……」
「その言い訳意味わからないんですけど!?」

あの頃は、そんな呑気な日々が、ずっと続くと思っていた……

(つづく)



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