蓬 窓 閑 話

「休みのない海」を改題。初心に帰れで、
10年ほど前、gooブログを始めたときのタイトル。
蓬屋をもじったもの。

『蜘蛛の巣のなかへ』トマス・H・クック(村松 潔訳)

2021年03月14日 | 読書

 クックは、さんざん読んでもう十分、と思っていたが、久しぶりに手にしたら、やはりいい。

 文体のほどよい書き込みや、人間の深奥にある暗いもの──幸せであるはずのふつうの生活の底に沈んでいるもの──あるいは、ふだんは気づかない、人への憎しみなどが、自然に浮かびあがってくる。

 本読み家の友人に聞くと「読んだわよぉ、暗~くなって、クックを読んで、また暗~くなってね」と言う。『緋色の記憶』がクックファンの一番人気らしいが、私は『死の記憶』を挙げたい。
 
 ジョン・グリシャムも書いているが、60年代南部には、暗愚な差別感が歴然とあった。『蜘蛛の巣のなかへ』では、山に住む人間と谷に住む人間との差別感、因習という蜘蛛の巣。
 これほどあからさまではないが、21世紀の現在でもあるだろうな、と思わせられる。田舎へ行けば行くほど。トランプが大統領になってから、ますます顕著になった。
 
 日本にもある。田舎におけるよそ者あつかいや、都会では、住む地域への偏見。自分たちだって、大したところに住んでいるわけじゃないのに。
 こんなことは世界じゅうにあるだろう。
 などということまで考えさせるところが、クックのすごいところ。

(写真はイメージ)