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最近読んだ小説レビュー Vol.26

2006年11月10日 | 小説レビュー
結構、最近は読書に充実している。ほとんど電車の中だけど、いい感じに読み進められているので、このペースを維持したい。


今回は、
2003年に第40回文藝賞を受賞した生田紗代さんの受賞作『オアシス』


『オアシス』

この作品は、二つの軸で進む。一つは、自転車が盗まれてそれを探す軸。もう一つは、お父さんが単身赴任でいなくなった途端家事を放棄して、娘二人に逆ニート状態の母を娘二人(主人公と姉)がいじめる軸。

正直、自転車が盗まれる話一本で書いたら駄作だし、後者一本でもありがちだったけど、これをうまくあわせる事で、主人公のカラーが明瞭になる。

家庭のシーンなんて、一見、物凄く幸せな家庭で、仲のいい姉妹だな、と思ってしまうけど、逆ニート化してる母への対応や浴びせる事は凄まじく怖い。穏やかなホラーですよ。

普通に読むと、姉妹がすごく悪に見えてしまうところを、母の逆ニート化というところで、主人公らに共感できるようになっている。「まあ仕方ないよ。そういう対応になっても」と読んでる僕らは思えるから、この作品はうまい。あと、台詞がものすごく自然で、上手い。これだけでもポイントが高い。

ストーリーの面で言うと、この作品のテーマや裏にあるものが見えないと「ただの日常の話」に思えてしまった面白くないという人もいると思う。



後、解説が面白かった。

生田さんは、実は文藝賞に三回応募してる。
そして、二回目で最終選考に残ったけど、落とされた。
落としたのが、解説を書いてる斉藤美奈子という人だ。
かなり厳しい評価を下し、生田さんは悔しくて泣いたらしい。
次回作を書かれる率も次回作がまた最終選考に残る率も決して高くないのに、斉藤さんは心を鬼にして落としたらしい。

で、その翌年、『オアシス』が送られてきて、受賞した。
まさに三度目の正直で受賞。
斉藤さん曰く、前二作とは段違いの面白さだったという。
そして、生田さんは最初から作家として書き続ける姿勢ができている、とも言っている。


経歴みたら、大学卒は書いてないから、きっとフリーターしながら書いたんか、と思うと、本当に作家になるために必死だったのかなという面も見えてきて、彼女も普通の人なんだ、という親近感が湧くし、勇気付けられる。きっと彼女は、『オアシス』で取れなかっても、翌年送ってたと思うし。

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