確かあくる日の出来事だったと思う。
よく思い出せないが、もしかして3日、4日経った後だったかも知れない。
私は、当時BARの店長をやらせて貰ったりしていてお世話になっていた、I組のKさんと一緒にいた。
I組は、当時某関西系広域組織の二次団体で、諸事情あって今では違うが、当時はその執行部に名を連ねる位繁栄を謳歌していた。
そしてI組長は経済やくざとしても全国にその名が轟いていて、本部が地元にあった。
その本部事務所の目と鼻の先にあったKさんの事務所で、私はKさんと二人きりで談笑をしていた。
Kさんは当時直参と言われる、I組長から盃を貰った直の若い衆だった。
今でもそうかも知れないが、今は8年以上も会って無いので何も分からない。
しばらくすると、
「ちょっと女に会うてくるわ」
「暫くしたら帰るさかい、お前、ここにおってくれや」
と言い、車でどこかへ出掛けて行った。
私は1人きりになり、他に誰も居ない事務所をくまなく見て回ったが、特に異常が無い事が分かると、再びソファーに腰を下ろし、今度は深く腰を沈めて、天井を仰いだ。
筋を言えば場違いの選択だったのかも知れない。
何故なら前章でも説明したが、叔父OはI組とは同じ傘下の関西系広域武闘派組織、当時は更に出世して組長にまで登り詰めていた人と関係があったので、極道するなら、O側組織でするのが一番揉めない方法だと思っていた。
以前にも、私が一回目の服役を終えて帰って来た時に、私はやくざを志し、組も決め、Oに一応、話を通しに行ったら、お前は向いて無いからアカンと大反対され、話は無くなった。
今から考えると、やくざするのに向くも向かんも無いだろうと思っているし、話を通しに行くべきでは無かったと反省しているのだが、一応無視する事は出来なかったので、その時はやくざの道を諦め、すぐに私は黒服の道に走った。
因みに、私が入る予定だったその組の組長は、地元で一番力があると位言われていた武闘派組織の代を引き継ぐ事になり、名実共に大出世を果たした。
どこの組に行くかはOには言って無かった。
変わって二度も懲役を経験し、周りの方にも見放されたとなれば、やくざやるしか道は無い。
私は、やくざもやらずに中途半端に犯罪に手を染め、刑務所を行ったり来たりする人達を見て、みっともない、ああはなりたく無いと常日頃から思っていた。
そうは言っても、やはりO側の組の人達にシンパシーを感じていて、何かにつけて温かく接してくれるのはO側の組の人達なので、O側との組員の付き合いを意識していたのですが、ある日二回目の刑務所で一緒だった平たく言えばO側の組のHという人間がいて、こいつから覚醒剤の取り引きを持ちかけられたので、確か20g位の取り引きだったとは思いますが、それに応じ、取り引き場所に行くと、訳の分からないおっさんが突然出て来て、胸ぐらを掴まれ、どうも同じ組織同士の取り締まりじゃみたいな事を言われ、覚醒剤を取り上げられて川に流されてしまった。
そのおっさんは思い切りO側の組員を名乗り、金は先にHに渡してあったので、Hは私にすいません、金返しますさかいと言っていたのですが、結局、金は半分しか戻って来なかった。
金額で言えば大した話では無かったのですが、私からすれば嵌められたのと同じでしたので、私はそれを許す事が出来なかったし、客の信用も失った。
公には出来ない話でしたが、少しやり方が食い物にして来ようとするやり口だったので、私は女もただでアテンドしたし、優先的に金になる話があれば持ちかけていたので、もうめちゃくちゃ嫌になりました。
こんな事やられるのであれば、I組は金持ちと聞いていたし、刑事もI組の人間は何故か警察に捕まる事は少ないな、と言っていたのも思い出して、座布団も同じやし、ほなこっちでええやんと、I組のKさんに寝返った。
そういう経緯があったのです。
事務所は隅々まできちんと掃除が行き届いていて、聞こえる音と言えば、冷房、そして、冷蔵庫の音位だった。
Kさんはこの事務所を囲む様に風俗店を何軒も経営していて、両隣の部屋も従業員達が使っている。この部屋の真下には、私が働いているショットバーがあった。もちろん、Kさんがオーナーである。
Kさんは覚醒剤も使用していた。同じI組の人を使って覚醒剤も売り裁いていた。
私はソファーで少し寝ていた様だった。目が覚めると、私は体を起こし、煙草を取り出し火を付けた。