僕は決して“読書家”ではないし、読む作家もかなり偏りがある。特に好きな作家は、村上春樹、綿矢りさ、川上未映子、そして小川糸。
ここ暫くはまたちょっとした小川糸マイブームになっており、先日紹介した『とわの庭』を読んだばかりだが、ここ最近は小川糸のエッセイにハマっている。エッセイは割と好きで、特に村上春樹のエッセイは結構マニアックで面白いのだが、小川糸のエッセイもまた違った意味で面白い。
小川糸はかなりたくさんのエッセイを出版しているが、先日まず読破したのが『針と糸』。エッセイとしては比較的最新のもので、2018年頃から毎日新聞に連載されていたものを、今年2月に文庫本化したものだ。
小川糸のエッセイで個人的に興味深かったのは下記4つの点。
- 1つ目は、旅行エッセイとしての面白さ。
小川糸は旦那さまのことを“ペンギン”と呼び、このペンギンがエッセイにしばしば取り上げられていることで有名だが、今回のエッセイを読んでいて知ったのは、彼女がペンギンと別れてしまったこと。そして小川糸はラトビアとドイツにも暫く住居を構えていたが、エッセイではラトビアとドイツでの様々なエピソードが語られ、かなり面白い。ドイツは僕も出張で何度も行ったことがあるので、読んでいてイメージしやすいが、逆にラトビアは訪れたことが無いので、新鮮な気持ちで読むことが出来た。ドイツ人と日本人の文化の違いや、小川糸が得意とする料理も頻繁に取り上げられており、なかなか興味深いのだ。
- 2つ目は、ほっこり料理やスウィーツの癒し。
小説でも料理をテーマにしたものが多い小川糸だが、エッセイでもドイツのバームクーヘン、ソーセージ、パン、そして祖母との思い出のホットケーキ、おせち料理、卵焼き、お気に入りのアイスクリーム店など、日独の幅広い料理やグルメが登場するのが何とも楽しい。高級レストランの料理というよりは、なんかほっこりするような普段の料理やグルメにとても親近感が湧き、思わず想像しながら食べてみたくなるのだ。
- 3つ目は、母という存在と関係性。
小川糸の作品では、母という存在や、母と主人公との関係性がとても印象深く描かれており、時に確執があったり、冷めた距離感のある関係性として描かれていたのが前から気になっていたのだが、エッセイを読んで、実際に母とは色々と確執があったこと、そしてそんな確執やわだかまりがあった母が亡くなってしまった時のことなどが、『針と糸』では赤裸々に語られていた。この実母に対する気持ちや確執、そして逆に叶わなかった母からの愛に対する欲求が、彼女の作品の中で色濃く投影されていたということを、エッセイを通して垣間見たような気がして、その意味でとても興味深く読むことが出来た。
- 4つ目は、ワンちゃん“ゆりね”のエピソード。
愛犬きなこのいる僕としては、どうしてもペットに関する小説やエピソードには弱い。小川糸は、“ゆりね”というビション・フリーゼを飼っており、エッセイにもしばしば登場する。ゆりねちゃんは、ドイツのベルリンにも一緒に連れて行っており、コロナになって、何とかギリギリベルリンからゆりねを連れて帰国出来たことなどもエピソードとして語られている。ゆりねの話を読んでいるとなんともほっこりしてしまい、きなこのことがより一層愛おしくなってしまう。
そんな楽しさ満載の小川糸のエッセイなのだが、最近読んだ『針と糸』は最新エッセイということでおススメだが、今読み始めているのは『真夜中の栗』という幻冬舎文庫のエッセイ。今年2月に出版され、内容としてはラトビアやベルリンのエピソードが多い為、『針と糸』の内容と被るところも多いが、こちらは文庫本オリジナルということもあり、少しまた違った内容や視点で書かれている点で面白い。幻冬舎文庫では、これ以外にも多くの小川糸エッセイが出版されているので、これから少しずつ遡って読んでみたいと思っている。