blue deco design lab

戦争の不条理 - 映画「私は貝になりたい」

先週のインド出張では、またいつものようにJAL機内で映画を何本か見たが、今回は昨年劇場公開されていた日本映画「私は貝になりたい」を見た。大体どんな話なのかはわかっていたので、暗い気持ちになってしまうのではと思い、最初はやや見るのを躊躇したが、中居正広と仲間由紀恵のなかなかコンビぶりをちょっと見てみたくなり、思わず見てしまった。しかし、やはり予想通り、見終わった後でどんよりと暗い気持ちになってしまった。日本の戦争映画は特に内容的に辛いものが多く、涙無しに語れない設定ばかりだが、今回も思わず感情移入して涙してしまった、あまりにも切ない物語である。

「私は貝になりたい」は、戦争中に捕虜となった米国兵を殺害したとして、戦争に負けた後米軍の軍事裁判にかけられ、無実にも関わらず戦犯として首吊りによる死刑を宣告されてしまう不幸な男の物語で、昭和33年のテレビ草創期にフランキー堺によってTBSでドラマ化されて当時大きな反響を呼んだ作品のリメイク。今回主役の男、清水豊松を演じるのが中居正広。そして妻房江(仲間由紀恵)と幼い子供を2人国に残し、いつ死刑の日を向かえるかわからない不安と恐浮フ日々を、東京の牢獄で過ごす。石坂浩二演じる元上司であった矢の中将や、鶴瓶演じる西沢、草なぎ剛が演じる大西等、牢獄での人々との出会いなども盛り込まれ、物語に深みを与えている。

戦争ものの映画を見るとどうしても気が滅入ってしまう。日本の場合、”赤紙”1枚によって突然戦争へと借り出され、御国の為、天皇陛下の為と忠誠を誓い、殆ど狂気とも思える戦時下の日本軍の心理は改めて異常であると思えてならない。特攻隊などをテーマにした多くの映画が製作されてきたが、この狂乱の中で自らその尊い命を投げ出し、散っていった人々の悲惨な物語は涙無しには語れない。もちろん、これは日本だけの話しでは無く、戦争中はどの国の人間にも辛い物語があり、普通とは思えない状況の中で、人間はあまりにも愚かで悲惨な過ちを繰り返してきた。今回の映画を見て、改めてまた戦争の不条理と悲惨さを痛感させられた。

本映画では裕福ではないものの平穏な生活を送っていた中居正広演じる理髪店を営む豊松が、まずは徴兵で家族と引き裂かれ、その後逮捕という形でまた引き裂かれる様子を描いており、最後は家族を残して無念にも処刑されてしまうというあまりにも残酷で悲惨な末路を描いている実話に基づいた物語。こういう不幸な出来事は稀では無く、当時結構起きていたようだ。自分も家族を持つ身として、家族と引き裂かれ、そしてもう二度と会えなくなる辛い心境を察すると思わず感情移入して涙してしまう。特に、最後家族の写真を強く握り締めながら首絞刑により処刑されていくシーンはあまりにも辛い場面だ。また映画のタイトルにもなっているくだりだが、豊松が死刑前に言い残す下記最後の言葉が、胸に深く突き刺さる。

「けれど、こんど生まれかわるならば、いや、私は人間になりたくありません。
牛や馬にも生れません、人間にいじめられますから。
どうしても生れかわらなければならないのなら、私は貝になりたいと思います。
貝ならば海の深い底の岩にヘバリついて何の心配もありません。
兵隊にとられることもない。戦争もない。妻や子供を心配することもない。
どうしても生まれかわらなければならないのなら、私は貝に生まれるつもりです」

やや話題を変え、登場人物に関して触れておくと、主役の豊松を演じる中居正広は実際に劇中、仲間由紀恵に髪を坊主頭にして貰い、7キロ減量を敢行してこの辛い役に体当たりで挑んだらしく、その悲壮感漂う演技にはなかなか迫力があったし、仲間由紀恵もリアリティーのある芯の強い妻、母親、そして豊松を愛する一人の女性の姿を熱演している。この「なかなか」コンビも紅白の司会以来、なかなか息の合った良いコンビでは無いかと思えるが、実生活でもカップルになるようなことは無いのだろうか? 結構お似合いかもしれない。

戦争映画はこれまでにも多く見てきたが、やはりどうしても楽しい気分になるジャンルでは無いし、テーマがあまりにも重いので好んで見てはいないのだが、織田裕二、鶴田真由、仲村トオル、緒方直人、的場浩司等が主演した「きけ、わだつみの声」、昔テレビドラマで見て感動した「二十四の瞳」、海外の映画等では「プライベートライアン」、「ライフイズビューティフル」、そして記憶にも新しいクリント・イーストウッド監督作品の「硫黄島からの手紙」などは深く印象に残っている。また涙無しに語れないアニメの「火垂るの墓」などもそうだが、どれも戦争の犠牲になって散って行った人々の悲しい物語ばかりである。

人間とは愚かな生き物で、常に戦争の歴史を繰り返してきた。今でも世界のどこかで戦争は起きているのである。日本もすっかり平和ボケしてしまっているが、第二次世界大戦もそう昔の話しでは無いのである。このような映画を通じて、戦争をリアルタイムで経験していない若い世代などが戦争の悲惨さを知り、平和な世の中を願う気持ちや命の尊さ、戦争の愚かさを感じ取る機会になれば、その物語の意義もあると思われる。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「映画」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事