この映画は、僕が一番好きな芦川いづみ作品である『あした晴れるか』を監督した中平康の最高傑作とも言われている作品だが、芦川いづみの出演シーンが少ないとか、芦川いづみが年配のおやじに言い寄られるような映画という暗いイメージがあって、これまで観るのをどこかで避けていた。しかし、今回思い切って観てみようと思い、DVDをついに購入した。ちなみに、前回紹介した『その壁を砕け』も中平康監督作品。
結論から言うが、この作品はとても面白かったし、もっと早くから観ておけば良かったと思ってしまった。それほど、なかなか素晴らしい作品であった。中平康らしく、とてもスタイリッシュに当時の若者を上手く描写しており、想像していたよりも遥かに“明るい”トーンの作品であった。
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(あらすじ)
主人公の杉本省吉(千田是也)は、銀座のすずらん通りで洋品店を営んでいた。妻を少し前に亡くした省吉は、娘の秀子(左幸子)と一緒に住んでいる。しかし、彼は今でも初恋の女性、栄子のことを忘れられずにいた。秀子は画家仲間たち(仲間の一人に、日活映画には欠かせない中原早苗もいる)と青春を謳歌しながら、気楽に過ごしていた。ある日、画家仲間で、洋品店の2階スペースで、絵の展示会をやることになる。洋品店には無愛想で化粧っ気が全くない、虫R順子(渡辺美佐子)がいたが、貧乏画家の草平にその美貌を指摘され、化粧をするようになって見違えてしまう。そして順子は、草平のことを好きになっていく。画家の一人に小平(葉山良二)という好青年がいたが、彼は画家としての腕よりも、ビジネスマンとしての手腕が買われ、やがて才能のある貧乏画家の草平をプロデュースしていくようになる。
そして、小平には妹の章子(芦川いづみ)がいたのだが、この章子があまりにも省吉の初恋の人、栄子に似ていた為、省吉は絶句してしまう。実は章子は、栄子の娘であったことがわかり、また栄子も数年前に亡くなってしまったことを知る。そして章子もまた、初恋相手の存在を母から聞いており、やがてそれが省吉であったことを知る。章子は省吉の娘の秀子とも仲良くなり、家にも来るようになったが、ある日秀子と一緒に酔って帰ってきた章子も家に泊ることになり、なんと省吉の部屋の隣で寝ることに。夜苦しそうな声を出す章子のことが気になり、省吉は部屋に様子を見に行くが、どうやら彼女は完全に寝ている様子。その美しい寝顔は、まさに栄子と瓜二つで、栄子とは結局一度もくちづけを交わすことがなかったことを後悔していた省吉は、思わず衝動に駆られて、章子にキスをしてしまう。章子も、実は母から省吉とくちづけを交わすことが一度も無かったことを悔やんでいることを知っていた為、母になりかわって省吉の気持ちを受け入れたのであった。
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あらすじからもおわかりの通り、芦川いづみは、省吉の初恋の人栄子と、その娘の章子という一人2役を演じている。しかし、初恋の人として映画の前半にチラッと登場してからは、映画の役半分過ぎまで、芦川いづみが一切登場しない。その間は、普通に画家仲間や省吉の洋品店を取り巻く、楽しい登場人物で物語はとても明るく、楽しい展開となり、普通に楽しめる。
途中、画展にあの岡本太郎ご本人も登場し、チョイ役で特別出演しているが、これはかなり貴重な映像だ(岡本太郎が演技していることにもびっくり!)、そして中盤は、店員の順子を演じる渡辺美佐子の美しさが際立ち、そして面白い保険のおばちゃんとして省吉との結婚を画策するコト子(轟夕起子)が何ともコミカルで面白い役を演じているのも、この映画を楽しくしている大きなャCントだ。
そして、ようやく映画も半分以上終わった時、ようやく章子として、待ちに待った芦川いづみが登場する。当初芦川いづみの主演シーンが少ないという話も聞いていたので、ちょっと心配したが、確かに総出演時間という意味では意外に少ないのだろう。しかし、不思議なことに、物語の根底に省吉の初恋の人として、そのサブリミナルな存在感で、知らず知らずのうちに映画を支配しており、そしてついに満を持して娘の章子として登場することで、一気に盛り上がる。そういう意味では、総出演時間とは関係なく、この映画は間違いなく、芦川いづみの主演映画と言える作品であるということが、映画を初めて観て、実感として得ることが出来た。
終盤に出てくる芦川いづみはやっぱり美しい。どこか儚い美しさは、まさに誰もを魅了してしまう。さすが、芦川いづみである。章子と省吉のその後は特に描かれないが、ラスト、杉本洋品店の向かいのビルの2階から、省吉を眺める章子のショットで映画は終わるが、母の思いを成し遂げた満足感からなのか、これから更なる展開を予感させるものなのかはわからないが、とても良い余韻をもって映画は終わる。とても後味の良い映画であった。
芦川いづみの作品を多く観てきたが、僕はやはり少し勝気で、明るい役柄の芦川いづみが好きだ。しかし、彼女が演じるのは、圧涛Iに幸薄な美女という役の方が圧涛Iに多い。その意味では、可憐な役をやらせたら、当時芦川いづみの右に出るものはいなかったと言い切れるだろう。芦川いづみの美しさを満喫出来る良い映画であったのと同時に、物語としても良く出来たスタイリッシュな映画であったこと、そしてまた新たな中平康監督作品の魅力に触れることが出来たのは、大きな収穫であった。
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