第7弾に続き、立て続けに第8弾を。今回は1956年の日活モノクロ映画、『哀愁の園』を観賞した。この作品は、南田洋子と葉山良二の初競演作で、かなりコテコテのメロドラマである。元々ラジオのメロドラマを映画化したものなので、戦後に流行った『君の名は』的な雰囲気が漂う作品でもある。
物語は下記の通りだが、一言で言ってしまえば女性の立場があまりにもまだ弱い時代の産物であり、レイプにより、純潔を失ってしまったヒロインの女性が、恋人にその理由を告げることなく彼のもとを去っていくという悲しい物語だ。色々と突っ込み所満載の映画ではあるが、まず当時の南田洋子(後に、長門裕之の奥さん)の主演作品で、やっぱり当時の若い彼女は実に美しい。そして、石原裕次郎作品を始めとする多くの日活映画にも主演していた葉山良二は、いつもいい人役が多いが、この映画でも恋人を一途に愛する真面目な男性を演じていて、まさに彼の定番の配役である。
(あらすじ (日活のウェブサイトより))
日東毛織の社員・速水達也(葉山良二)は蓼科にいる母の希望で牧場を経営するため、会社を辞めることになった。彼の恋人・津村みゆき(南田洋子)は日本橋の老舗・山一商店の一人娘として生まれ、何不自由なく過ごしてきたが、昨今の経営不振でみゆき自身も働かなければならなくなった。そんな時、達也と同窓で日東毛織の若社長である小松原道隆(相原巨典)とその愛人・江口沙江子(渡辺美佐子)の乗るハイヤーが、皮肉にもみゆきの父・新太郎をハネてしまう。幸いにも軽い脳震とうで済んだが、病院に付き添った道隆は駆け付けたみゆきの美しい横顔を見て密かに邪心を起こすのだった。一方、銀座を行く達也は沙江子に会った。沙江子は道隆の世話になる中、社員の達也を慕い始めていたのである。その後、道隆は山一商店を援助し、その上、みゆきは道隆の秘書として就職することか決まった。こうして達也は「必ず待っていてください。迎えにきますから」との言葉をみゆきに残して、高原の牧場へ旅立った。東京で働くみゆきはある日、道隆の重役会出席のため箱根へ同行する。だが道隆の卑劣な毒牙にかかって純潔を奪われてしまうのだった。
=============================================================
上記の通り、若社長である道隆の毒牙にかかり、純潔を失ったみゆきは思い詰めてしまい、芦ノ湖で自殺を図ろうとするが、ストリップダンサーのサリー(潮けい子)に助けられる。しかし、結局みゆきは達也との別れを決意するが、クリスマスパーティーの夜も達也とデートするも、真実を言わずに、この日を最後に別れる決心をするところで映画は終わってしまう。その後の展開を見せず、ある意味余韻を残して終わったのだろうが、ちょっと正直消化不良のエンディングではあったし、真実を達也に告げないみゆきにも、なんとももどかしい気持ちであった。
ラストシーンは、達也とみゆきがそれぞれ背中を向けて、振り返らないという約束で別れる。これは『東京ラブストーリー』でカンチとリカが別れたラストシーンでも描かれたパターンだったが、メロドラマでは、こんな昔から同じことをやっていたのである。
こんなメロドラマの中で、個人的に特筆すべき点は下記3点。
1) まずは先程も触れたが、売り出し当時の南田洋子の美しさは、この映画の魅力の一つでもある。
2) 若社長、道隆の愛人役を演じる、渡辺美佐子の妖艶な美しさ。僕は結構渡辺美佐子が好きで、他にも多くの日活映画で芦川いづみとも共演しているので観ているが、ちょっと小悪魔的な愛人役をやらせたらピカイチである(笑)。今回も暗いメロドラマの中で際立つ役柄を見事に演じていた。
3) そして最後はやっぱり芦川いづみだ。1956年の作品にて、まだ芦川いづみ人気がピークに達する前の作品でもあり、少し初々しい芦川いづみが楽しめる(若い頃の芦川いづみは、より星野真里に激似である!)。この作品も決して出演シーンは多くない。全体でも数分に満たない登場シーンだ。達也が継ぐ実家の牧場で働く活発な女性、梨花を演じているが、牧場で馬に乗るシーンなどもあり、結構貴重なシーンを観ることが出来る。きっと、みゆきと別れた後、牧場に戻り、達也と梨花は結ばれたのではないかと勝手に想像してしまったが、こんなチョイ役にも関わらず、彼女がシーンに登場するだけで映画がぱっと明るくなるのだ。見事な輝きを放つ芦川いづみは本当に唯一無二の女優である。
また、おまけ情報だが、ストリッパーのサリーの恋人役である松本という男を演じているのが天本英世。そう、仮面ライダーの死神博士役で一躍有名になったあの天本英世である。こんな映画にも出ていたのかと驚いてしまった。そしてもう一人、寅さんの“おいちゃん”役で有名な下條正巳が若旦那をたぶらかす丸十の高橋役で出ていたのも面白い。古い当時の映画を観ていると、このような発見も結構あるのが楽しかったりする。
暗いメロドラマではあったが、前半は東京のオフィス風景なども登場し、総合的には当時の雰囲気や時代背景などを知る意味でも結構面白い映画であったし、芦川いづみファンとしても、牧場で働くいづみちゃんを確認出来た点で、収穫が得られた作品であった(笑)。