週末に映画『BLUE GIANT』を観に行ってきた。2013年から2016年まで『ビッグコミック』に連載された石塚真一の漫画だが、これが映画化されたのだ。通常、アニメドラマ化されてから映画化されるようなケースも多いが、いきなり原作漫画からの映画化である。
ジャズを取り上げた胸アツドラマなのだが、実は僕は漫画の方は知っていたものの、これまで手にとって読んだことがなかった。しかし、ジャズを題材にしたその異色漫画は前から気になっていたので、これをどのように映画化したのかという点と、単純にジャズという意味でも興味が湧いたので今回上映開始2日目にシネコンに足を運んだのだ。
まず、率直な感想として、“完全に打ちのめされた”映画となった。物語は主人公たちがバンドを組み、ジャズの頂点目指して駆け上がっていく熱い青春ドラマなのだが、表面上“静”として映像では捉えられがちのジャズの世界を、内に秘めたほとばしる激しい情熱である“動”として、それをスクリーン上で見事に再現・表現したアニメ描写は斬新で見事の一言に尽きる。アニメ映画を2時間観させられているという感覚は全くなく、もはや感動的なジャズ物語とライブをその場で体験しているかのようなリアルな臨場感を存分に味わうことが出来る映画であった。これは初めての体験で、本当に凄かった。
主人公は仙台から東京に上京してきた宮本大(だい)。大はテナーサックスを吹き始めて3年ながら、世界一のジャズプレイヤーになるんだ!という熱い情熱を持って果敢に挑戦する。しかし、これがただのビッグマウスではなく、吹き始めて3年とはいえ、その努力と練習量に裏付けされた“自信”と熱量がとにかく凄いのだ。アルバイトをしながら有言実行を目指して、地道に計画していく。そしてテクニックだけじゃない。ジャズは気持ちを如何に観客に伝えるかという点に情熱を燃やす。彼はライブハウスでピアニスト、沢辺雪祈(ゆきのり)と出会い、その演奏に惚れ込んで彼を説得してバンド"JASS"を組むことになる。雪祈は4歳からピアノをやっており、どちらかと天才肌という点で、大とはま逆の才能を持つ存在。しかし、逆に彼はテクニック先行型であるがゆえに、”もっと内からの情熱を表現しろ”、と周りからも痛いところを指摘されてしまい、自分の弱点を痛感しながら苦悩し、そして自分には無い才能と魅力を大が持っていることも自ら痛感しながら成長していく。そしてもう1人はドラマーの玉田俊二(しゅんじ)。大と同じく仙台から上京してきた大の同級生だが、元々ドラマーでもなく、完全なド素人。大と雪祈のセッションを見て、自分もドラムを単純にやってみたいというレベルから始めたが、猛練習してメキメキ上達していく。俊二はテクニックも才能も無い。しかし、ドラムが上手くなりたいという気持ちと、センスは持っているという存在。しかし、この三人三様の中でお互いに自分には無いもので刺激し合い、バンド全体としてのバランスと化学反応を炸裂させながら成長していく展開は観る者を引き込む。
途中壁にぶち当たったり、挫折も味わうことになるが、幾つかのチャンスを確実にモノにしながらジャズクラブなどで演奏を重ねて次第に知名度を上げていくが、固定ファンも次第に増え、それぞれのメンバーの成長を見守るファンなども登場しながら、盛り上がりを見せていく。そして、日本でジャズの最高峰である『SO BLUE』(これはBLUE NOTEのことである)でついに演奏する機会を得るのだが、ここでも大きな試練を迎え、SO BLUEでの最後のライブは圧巻のクライマックスで、まさに感動でしかなかった。いつまでも聴いていたいと思える、最高のジャズライブ没入体験であった。
サックスの大の声を演じるのが山田裕貴、ピアノの雪祈の声を演じるのが間宮祥太朗、そしてドラムの俊二の声を演じるのが岡山天音。豪華なイケメン3人衆が熱いドラマをしっかりと演じ切っていたのも映画の大きな魅力の一つ。
この映画を、リアリティのある本格ジャズ映画にしているのが、上原ひろみ。映画用に作曲し、音楽面で完璧に監修しているが、元々原作者の石塚真一と親交があったらしい。その意味では映画化においてなるべくしてなったスタッフ構成だろう。雪祈の美しいピアノ演奏も全て上原ひろみが弾いている。そして、上原ひろみが連れてきたサックスの馬場智章、ドラムの石若駿が担当。胸躍る本格的なジャズ演奏が全編で流れるのはまさに圧巻であった!サントラも大ヒット間違い無しである。
僕は映画を観ると、毎回必ずパンフレットを記念に購入するようにしている。そして『BLUE GIANT』のパンフレットは、なんとLPレコードと同じサイズの大判パンフ。通常のパンフよりもかなり大きいが、レコードを模しているのは何とも粋な演出である。中もレコードとレコードスリーブのようなデザインになっていて、まるでジャズレコードを楽しむようなワクワク感が残るパンフであった。
僕は元々ジャズが好きなのでそれだけでも楽しめたが、恐らくジャズをあまり知らない人がこの映画を観れば、きっとジャズが好きになってしまうだろう。その意味でも、ジャズファンを増やすことにかなり貢献しそうな映画体験であった。そして、今回の映画は、原作漫画の仙台・東京編を描いたものだが、映画の最後には続編となるドイツ編、アメリカ編も期待出来そうな終わり方だったので、映画版の続編もぜひ楽しみにしたい。