毎年恒例のこの企画が今年も始動。毎年この時期になると、むしょうに芦川いづみの映画が観たくなってしまう。昨年は芦川いづみ出演作計8作品を紹介した。これまでにもうかなりの数の芦川いづみ出演作品を観てきたし、DVDも手に入るものは殆ど手に入れてしまったので、かなり制覇しつつあるが、DVDを買ったものの、まだ観れていない作品がまだ3-4本あるので、今年はこれを中心に紹介してみたい。
まず2024年の第一弾は1966年公開の日活映画、『夜のバラを消せ』である。この作品は石原裕次郎の主演作品だが、『石原裕次郎シアター』シリーズのDVDをかなり前に買ったままになっていて、観ていなかった。芦川いづみの出演シーンがそう多くない作品ということもあり、なんとなく観るのを後回しにしてしまっていたが、やはり彼女が出ている作品は全てしっかりと観賞しておかねばと思い、DVDを引っ張り出したのだ。
1966年と言えば、芦川いづみが引退する2年前であり、終盤の出演作だ。しかも、この頃は既に吉永小百合、松原智恵子、和泉雅子の『日活3人娘』が日活映画のメイン女優に代替わりして人気を博していた頃にて、芦川いづみは主演というよりも、脇を固める立場になっていた時代である。
またこの時代は、洋画では007シリーズが大ヒットしていたこともあり、この映画も裕次郎を主演にした“和製ボンド“的な作品を意識していたことが伺える。カッコいいスポーツカーに美女とのアバンチュール、スピード感のあるストーリー展開にウィットに富んだオシャレなセリフ、そして派手なアクションなど、まさに007を意識したようなスパイ映画となっていて、その視点で今この映画を観るとかなり面白い。
物語はスリリングなカーチェイスから始まる。ハイウェーを疾走するジャガー。ハンドルを握る徳川新六(石原裕次郎)を、彼に首ったけの香港から来た女・梨花のバイクが追う。自主党代議士・津守広茂の妻・高子に会いに行く途中だったが、梨花を巻くと強引にゴルフ場で高子とゴルフすることになり、賭けで買った新六は、夜に再び高子の自宅で会う約束を取り付ける。しかし、それは新六の育ての親でもあった千成(東野英治郎)から与えられた使命を果たす為であった。次第に彼は資産家のパトロンであるゆかり(由美かおる)と行動を共にしながら敵から逃げ、黒幕に迫っていくのであった・・・。
ネタバレにはなるが、実は親代わりであった筈の千成が黒幕だったのだが、この千成の愛人役、鶴代を芦川いづみが演じている。和装の芦川いづみは愛人役だけあって何とも美しく、ミスリアスではあるのだが、完全に千成の言いなりとなっている哀愁漂う女性という役どころ。しかも、本編を通してセリフが全くなく、また出番も千成が登場するシーンに何回か登場するものの、中盤はどれもあまり魅力的なシーンではない。このまま終わってしまうのかと諦めていたら、ラストシーンで愛人の鶴代が千成をナイフで刺し殺すが、その後自らも敵の銃に倒れて死んでしまう。クライマックスとしての役は重要なのだが、やっぱり芦川いづみメインで観てしまうと、彼女の主演シーンが少ないのがとても残念な映画である。
芦川いづみは置いておいたとして、映画として純粋に観てみると、まあ話としてはチープで、007には到底及ばないものの、裕次郎の主演作としてはなかなか魅力的な作品だし、カッコいいジャガーのオープンカーや、派手なスパイアクションで、全体的に小気味良い展開となっている点は、当時の時代背景を思い浮かべながら観ると結構楽しめる作品ではある。しかも、この映画の注目すべき点は、あの由美かおるが新人として映画デビューを果たした作品で、彼女の若いエネルギーと、レオタードでキレのあるダンスを踊る姿などが楽しめるマニアックな作品でもある。正直、由美かおるは全く僕の好きなタイプではないし、お約束の入浴シーンで有名となった『水戸黄門』の頃の彼女の方が一般的に知られているかもしれないが、この映画では元気で初々しく、小悪魔的な魅力がある由美かおるが観れるという点では貴重な作品である。千成を演じる東野英治郎も日活俳優としてはお馴染みではあったが、彼が後に『水戸黄門』を演じていたことを考えると、この2人の“水戸黄門共演”も今となっては興味深い。
繰り返しにはなってしまうが、この映画は芦川いづみ出演作としての魅力はイマイチではあるものの、1960年代後半の美しい芦川いづみを確認することが出来るという意味で、ファンとして一度は観る価値のある作品だろう。と同時に、裕次郎作品としてはまずまずのエンターテインメント作品に仕上がっている点で、裕次郎ファンとしては後の『太陽にほえろ』、『西部警察』を思わせるようなアクションのエッセンスも垣間見れる感じもあり、愛すべき映画かもしれない。