1980年代に全米で大ヒットした『Miami Vice (特捜刑事 マイアミ・バイス)』というTVドラマがあった。全米ネットのNBCが、1984年から1989年まで放送した刑事ものだが、当時アメリカで高校生活を満喫していた僕もすっかりハマっていたし、放送翌日は学校でも話題になっていたものだ。
ドン・ジョンソン演じるソニー・クロケット刑事と、フィリップ・マイケル・トーマス演じるリカルド・“リコ”・タブスの刑事コンビが、麻薬と犯罪がうごめくマイアミを舞台に活躍するオシャレな刑事アクションドラマだが、昔で言えば『スタスキー&ハッチ』、日本で言えば『あぶない刑事』みたいな刑事コンビものとして一世を風靡した。当時は本当にマイアミの治安がかなり悪化していて社会問題になっていたが、まさに環境や時代のトレンドを強く反映させた作品であった。また、ファッションやポップカルチャーという意味でも、2人はベルサーチの白いジャケットや、アルマーニのスーツに身を包み、颯爽とフェラーリを乗り回しながら敵を追い詰めていく様はスタイリッシュでカッコ良く、大きな影響を及ぼした作品であった。
そんな『Miami Vice』の主題曲を手掛けたのがヤン・ハマー。昔ジェフ・ベックのバンドにもキーボードで参加しており、僕の好きなジェフ・ベックのアルバム『Wired』でも、ヤン・ハマーのキレのいいキーボード演奏を聴くことが出来る。彼はジャズ・フュージョンの流れを組む、実績豊富なミュージシャンとしては音楽ファンの間では知られる存在であったが、80年代にもこの『Miami Vice』でまた一気にブレイクしたのだった。TVドラマの主題曲は、歌が入っていないインスト曲。そしてTVドラマの大ヒットに合わせてヒットチャートを一気に駆け上がり、Billboard 1位を獲得。インスト曲が1位を取ることは本当に稀だったので、当時は大きな話題となり、その後映画『ビバリーヒルズコップ』で使われ大ヒットしたインスト曲、Paul Hardcastleの『Axel F』などインストシンセ音楽の台頭に道筋を付けたという意味でも画期的な曲であったと言える。
そんな思い出深い『Miami Vice』だが、この時にヤン・ハマーのアルバム『Escape From Television』を当時聴いていたのを良く覚えている。先日、レコードショップタチバナでたまたまこのアルバムを見つけて、懐かしくなって思わず購入した。これは『Miami Vice』のサントラだが、上記大ヒットしした主題曲、『Miami Vice Theme』を始め、同じく人気だった『Crockett’s Theme』、そして個人的に好きだった『Forever Tonight』などが収録されているフル・インストアルバムだ。シンセをふんだんに使っており、ポップなサウンドが展開されるが、往年のヤン・ハマーらしさもある楽曲が楽しめる感覚もあって、当時はかなり頻繁に聴いていたのが懐かしく思い出された。
個人的に80年代のアメリカでの思い出は数多いし、思い出深い80年代音楽も実に多いのだが、この『Miami Vice』とヤン・ハマーの主題曲も、かなりバブリだった80年代を象徴する、思い出の1曲として今でも脳裏に刻まれている。