1989年にTechnotronic(テクノトロニック)というグループによる『Pump Up The Jam』というダンスミュージックがリリースされ、当時大ヒットしたが、先日久しぶりにこの曲が収録された当時のアルバムを中古レコードで見つけて、思わず購入してしまった。
先日Swing Out Sisterのブログでも紹介した通り、1980年代後半当時の時代背景としては、“ユーロビート”に代表されるダンスミュージックが一大ムーブメントを巻き起こしており、90年代の新たな幕開けとなっていたが、この曲もそんな端境期に登場した曲だった。シンセなどを使ったテクノサウンドという意味ではユーロビートにも近いものがあるが、ラップやハウスのエッセンスを盛り込み、よりR&B的なブラックミュージックをベースにしたようなテクノハウスサウンドに仕上がっており、当時はとてもカッコよく、クラブシーンでも大いに盛り上がっていたものだ。同時期に登場して同じく大ヒットしたのが、ブラック・クラブハウス系のC&C Music Factoryであり、またTei Towaが仕掛けたヨーロピアンテイスト満載のDeee-Lite (ディー・ライト)などもハウス/ダンスミュージックの大きな流れに乗って大ヒットしていた。僕も当時良くCDを借りたり、買ったりしながら夢中で聴いていたものだ。
話をTechnotronicに戻すが、今回LPレコードで購入したファーストアルバム『Technotronic The Album』は、大ヒットのファーストシングル曲『Pump Up The Jam』に加え、セカンドシングルとしてこれまたヒットした『Get Up (Before the Night is Over)』も収録。35年経った今改めて聴いてみても、あまり古臭い感じがしないし、ダンスビートやシンセの使い方などが何ともカッコいいのだ。また当時はこのヒットシングル目当てで聴いていたのだが、アルバムとして改めて聴くと、実はその他の収録曲も小粒ながらなかなかノリとメロディが良く、今回新たな発見があった。
収録曲は下記10曲。
- Pump Up The Jam
- Get Up (Before the Night is Over)
- Tough
- Take it Slow
- Come On
- This Beat is Technotronic
- Move This
- Come Back
- Rockin’ Over the Beat
- Raw
改めて色々と調べてみたのだが、TechnotronicはJo Bogaert (別名: Thomas De Quincey)というベルギー出身の作曲家が手掛けたプロジェクトであった。当初ファッションモデルでもあったFellyという女性をメインボーカルに据え、アルバムジャケットなどのビジュアルもFellyを中心に展開し『Pump Up The Jam』で大ブレイク。Fellyはアフリカのコンゴ出身で、そのエキゾチックなルックスも拍車をかけ、ブラック・ハウスミュージックとしてのマーケティングに見事成功。このビジュアルもユーロビートとの差別化に一役買ったのではないかと思う。しかし、後に本当にボーカルを殆ど担当していたのはYa Kid Kという別の女性ボーカリストであったことが判明で、いい声をしているのでこれ自体は別に問題ないのだが、実態としてFellyは当初のイメージプロモーション役として、結果的にうまく使われたような形となったみたいだ。
その後も何曲かヒットして2枚のアルバムをリリースしたものの、やはりこのファーストアルバムほどのヒットには至らず、ダンスミュージックブームの減速と共にいつの間にかTechnotronicも表舞台から消えてしまったという印象であった。その意味では一発屋に近い位置付けかもしれないが、それでも当時は一瞬の輝きをハウス・ダンス業界にもたらしたグループとして記憶に残った。
35年ぶりにこのアルバムを入手したことで、大学時代にダンスミュージックにハマっていた当時が懐かしく思い出された。ダンスミュージックはEDMとして今でも形を少しずつ変えながらも定着しているジャンルでもあり、当時その斬新で先駆的なサウンドを世に送り出したTechnotronicに思いを馳せながら、レコードを聴くのもなかなか味わい深いものである。