このシリーズは早くも今年第7弾となったが、今回は1966年の日活モノクロ作品、『私は泣かない』をAmazon Prime Videoで観賞した。和泉雅子と山内賢の主演作品で、お目当ての芦川いづみは残念ながら2番手の配役ではあるが、相変わらずのキレイなお姉さんぶりを発揮した存在感だったので、満足である(笑)。
この頃、和泉雅子 x 山内賢というペアの作品は実に多く撮られていた。吉永小百合 x 浜田光夫と同じくらい、競演作が多かったが、これもその1本。芦川いづみ出演作品としては、引退の2年前ということで、かなり晩年の作品となる。
モノクロ作品というのもあるが、非行に走ってばかりいた女性が、体が不自由な少年と接していく中で自分の生き方を見つけていく物語ということもあり、全体的にかなり暗いトーンだ。しかし、当時“第一回青少年映画賞文部大臣グランプリ受賞作”ということもあり、重要なテーマを取り上げた作品として注目されたらしい。
物語だが、非行少女早苗(和泉雅子)は少年院から弁護士原田(北村和夫)の家へ引き取られたが、格別それを喜んではいない。早苗はさっそく昔の恋人宏を訪ねたが宏は別の女と暮らしていた。母の不貞を知ってから不良仲間に入った早苗の人間不信は一層強まった。原田の家には初めから馴染まなかった。原田の姪佳子や周囲の者の冷たい視線を感じるからである。だから原田の子供で小児マヒの為歩行不能の幸男(市川久伸)が、身障児特有のヒネクレた甘え方をしても早苗は受けつけようとしない。逆に頬をひっぱたいたり、死んだ方が幸せだと言ったりもする。だが、昔の仲間で、今は建設会社の運転手をして元気に働いている三郎(山内賢)に会ってから早苗も変ってきた。三郎の健康な生活と考え方に、早苗は自分が必要としているものを知ったのだ。原田の勧めで洋裁学校にも真面目に通うようになった。幸男が身体障害者施設恵友学園に通うことになった時、早苗は毎日彼を背負って送り迎えをするようになり、施設の先生、弓恵(芦川いづみ)もそんな早苗と幸男を見守っていく。幸男も次第に早苗になついていくが、早苗があまり幸男の歩行訓練に熱心になり過ぎて、幸男が急激な運動で脆弱な身体にさわって高熱を出したりもしたが、とにかく、無事に楽しい日々が過ぎていった。その頃、三郎は九州に仕事で行くことになり、早苗もある想いをこめて見送った。一方、原田は身障児の実子を殺した男を早苗に励まされて弁護することになり熱弁をふるって、事実上の無罪をかち取ったが、その男は子供の墓の前で自殺する。大きなショックを受けた原田や早苗も、ある日、幸男が、一歩、二歩、歩き始めた時、その悲しみも忘れて喜びあった。やがて、早苗は幸男と離れることはつらかったが、自立する職業を身につけるため、裁縫工場に勤めることにした。三郎も手紙で早苗の決心を知って励ましてくれたが、今、早苗は自分がすっかり変ったことを知ったのだった・・・という内容だ。
物語としてはとても良く出来ていて、純粋に観ていてそのドラマ性に引き込まれてしまったし、早苗と少年の関係性が変わって、自分自身も変わっていく展開も実に丁寧に描かれていたので、とても見やすい作品であった。
最後、幸男が自転車の練習をしていた時に転んでしまい、何とかジャングルジムにつかまりながら自分の力で立って歩行するシーンや、最後に幸男との別れに涙する早苗のシーンも実に感動的であった。
和泉雅子は通常可愛い役が多いのだが、この映画では非行少女という役を見事に演じていることにも感心してしまった。また、前回も取り上げた太田雅子(後に梶芽衣子に改名)もチョイ役で登場しているのも楽しい。
そして、芦川いづみだが、障害者施設の先生、弓恵役で登場する。映画全体を通してみた場合に、そんなに登場シーンは多くないのだが、後半は早苗と幸男を助け、いつものようにキレイなお姉さんとして映画の中で圧倒的な存在感を発揮する。やっぱり、芦川いづみはどんな役でもスクリーン映えしてしまうのはさすがである。
結論として、映画としては大変面白い作品であり、勝気な女性を演じる和泉雅子の新たな一面を楽しむ意味ではおススメの作品だ。そしてこの作品も残念ながら、“芦川いづみ主演作”とは言い難いものの、やっぱり彼女の晩年の美しさを堪能できる作品の一つとして、ファンとしてはぜひ観ておくべき1本ではないだろうか。