この映画は1973年に東宝から公開されたが、後にあのクインティン・タランティーノ監督が大好きな日本映画としても有名になり、自身の監督作『キルビルVol. 1』で雪の中の格闘シーンをオマージュとして描いたことで、本家『修羅雪姫』もまた改めて世界から注目を集めたのだ。ちなみに、『キルビル』では、梶芽衣子が歌う主題歌も流れるといった力の入れよう。
この映画は、悪者4人によってもて遊ばれた女性が、その一人を殺害した罪で牢獄に入れられ、牢獄の中で身籠った娘を出産するも、無念の死を遂げる。その娘は修羅雪と名付けられる。やがて修羅雪は母の仇を討つ為に4人を探す旅に出るという復讐劇だ。子供の頃に僧侶の下で過酷な修行を乗り越えて剣の腕も磨き、成長して行く過程も描かれる。このような復讐テーマや修行もののプロットは珍しくないし、例えばカンフー映画で言えば、復讐ものではブルース・リーの『ドラゴン怒りの鉄拳』や、ジャッキー・チェンの『蛇拳』、『酔拳』にも通じるものがあり、日本の時代劇でも多く存在するが、この映画が特異なのは、何ともキレのある“バイオレンス映画”であることが強調されていることだ。それもその筈、原作は小池一夫の劇画漫画。また、明治時代に西洋文化が入り始めていた日本を舞台にした時代劇というのもまた独特な雰囲気を醸し出している要因かもしれない。
そして修羅雪姫というタイトルも、まるでディズニーのパロディーかのようで思わず笑ってしまうタイトルだが(笑)、内容はいたって真面目なバイオレンス映画。修羅雪は、蛇の目傘に仕込んだ白刃で次々と悪党を殺し、復讐していく。そしてその殺しのシーンも血しぶきが飛び散り、残酷なスプラッターシーンが満載。ただ、この普通ならおどろおどろしい残酷なシーンも、血しぶきで真っ赤に染まった雪や、修羅雪の着物を赤く染めて行く様子は、ある意味ビビッドで刺激的な色彩感覚でもあり、今改めて見てみると、まるでアート作品とも言えるような危険な美しさ。日本美と残酷さが相まって、如何にもタランティーノが好きになった(というか、影響を受けた)作品というのもうなづける。
梶芽衣子も元々日活の女優だったが、その後東宝や東映映画にも多く主演。またこの作品には同じく日活女優として有名であった中原早苗が悪党4名の内の1人を演じているが、自殺した後、修羅雪が彼女の胴体を真っ二つにして夥しい血が飛び散るというグロテスクなシーンもあり。
そしてこの映画の最大の魅力は、何と言っても梶芽衣子の美しさ。公開当時彼女は26歳くらいだったと思われるが、既にこの頃から大人の色気をフルに発揮している。こんなに美しい彼女が、修羅雪となって敵を次々にぶった切って行くのがあまりにも切なく、そして美しいのだ。梶芽衣子は現在74歳になるが、この頃はまさに美しさもピークであったと思われる。ちなみに、この映画は好評につき、翌年の1974年に続編『修羅雪姫 怨み恋歌』が制作された。
『修羅雪姫』を観賞し終わり、それにしても良くこのような何ともマニアックで美しいカルト映画が日本にもあったものだと感心してしまった。当時の日本映画も捨てたもんじゃないと思ったのと同時に、独特なバイオレンスがトレードマークであるタランティーノ映画のルーツも垣間見たような気がした貴重な作品であった。尚、タランティーノが見たであろう英語版のタイトルは、『Lady Snowblood』だが、何とも美しく秀逸な英訳である。
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