『ライオンのおやつ』を読んでから、小川糸さんの心温まる、独特な癒しの文面にすっかりハマってしまったが、『ツバキ文具店』も最高に癒される作品であった。鎌倉を舞台に繰り広げられる、代筆を行う文具店の話だが、この文具店を営む鳩子(愛称、ャbモソゃんと呼ばれている)は、先代から家業となっていた代書屋(手紙などを本人の代理で書く仕事)を引き継いでいる。このツバキ文具店に代書を依頼する様々なお客が訪れて、物語が展開していく。また、ャbモソゃんが様々な隣人や、先代と所縁のある人々などと関わりながら、先代の思いや、自分との関係性などを再認識していく物語でもある。
物語全体としては、特に劇的な展開があるわけでは無いのだが、様々なお客をきっかけに展開されるミニストーリーがとても面白く、何とも味わい深い構成だ。隣人も個性的で魅力的であり、ャbモソゃんとの関わり方も実に巧みに、臨場感たっぷりに描かれている。
そしてこの『ツバキ文具店』には、翌年の2017年に出版された続編、『キラキラ共和国』がある。『ツバキ文具店』を一気に読んでから、続けて『キラキラ共和国』も一気に読んでしまったが、これがまた何とも素晴らしい、癒される続編であった。『ツバキ~』のラストでレストランを経営するミツローさんと、その娘のQPちゃんと急接近するが、『キラキラ~』では、ミツローさんとャbモソゃんが結婚するところから始まる。少し年月が経過しているが、相変わらずお馴染みの隣人たちと物語が進展行くが、また新たな代書のお仕事も舞い込んでくる中で、ャbモソゃんも影響を受け、そしてャbモソゃんが代筆した手紙が、また新たな人間模様に影響を与えて行く。淡々と流れる平凡な日々にも、こうやって少しずつお互いに影響を与えながら人生は進んで行くんだな、ということを読んでいて実感するような小説であった。
この2つの小説の大きな魅力の一つは、舞台となる鎌倉にある。ツバキ文具店は鎌倉の八幡宮から少し北に行った場所にある設定だが、鎌倉の様々なお店やレストラン、神社などの名所が登場するので、鎌倉観光案内としての楽しみ方もあるのだ。そして、番外編・別冊として、『ツバキ文具店の鎌倉案内』という、まさに小説に登場する、実在するお店や名所が紹介されているガイドブックとなって発売されている。ャbモソゃんが紹介して行く設定になっており、普通のガイドブックでは味わえない小説と連動したほのぼのさが何とも楽しい一冊だ。カレーで有名なキャラウェイや、パラダイスアレイの餡パン、鰻のつるやなど、数多く登場するが、僕がきなこと訪れたワンちゃんOKのオープンカフェ、『ガーデンハウス』も登場する。また、僕が出張の手土産として毎回必ず購入する鎌倉紅谷の銘菓、『クルミッ子』。僕はこれが大好きなのだ。
それにしても、小川糸さんの作品は、おかゆを食べているような、何とも癒される小説ばかりである。決して過剰なドラマチック演出はなく、一見淡々と、ほのぼのとした物語展開が進んで行くのだが、そこには登場人物それぞれの味わい深い人生が描かれており、様々な人間との関係性の中で少しずつ変化している様子も楽しめる。そして、登場人物も、適度に個性的でリアリティーのあるキャラクターに仕上がっており、物語に彩りを与えているが、これは作家独特の感性から来るものなのだろう。
『ツバキ文具店』、『キラキラ共和国』、そして『ツバキ文具店の鎌倉案内』の3点セットは、癒しの3点セットであり、また鎌倉に行ってみたくなる作品であった。
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