足尾山(あしおざん) 烏天狗(からすてんぐ)
【データ】 足尾山 628メートル▼最寄駅 JR水戸線・岩瀬駅▼登山口 茨城県桜川市真壁町山尾の上曽峠▼石仏 山頂下の足尾神社。地図の赤丸印▼地図は国土地理院ホームページより▼この案内は拙著『里山の石仏巡礼』(平成18年、山と渓谷社)から転載したものです
【里山の石仏巡礼84】 真壁町の樺穂駅に車を置いて、加波山から足尾山に登った。真壁は石の街。街には東に連なる加波山の中腹から切り出した真壁石を加工する石屋が並ぶ。樺穂から加波への道にある農家の庭先も石工場になっている家が多く、街全体が石にかかわって生活しているように見えた。真壁石は白御影石、優雅な色あいで風化しにくいことから建築物をはじめ、墓石や石仏などに利用されてきた。
加波山への道は石切場への道を歩くがこれは中腹まで、山への道に入ると鬱蒼とした杉林が続いて加波山神社に着く。社殿は他にも本宮や新宮があり、山全体が静寂な空気に包まれていた。毎年夏には修験者の荒行・加波山禅定の舞台となる山でもある。これに比べ足尾山の山頂にある足尾神社は足の神という庶民的な信仰と、社殿だけの質素なたたずまい。社殿の前には足の健康を願って奉納された靴、サンダル、草履が並んでいた。境内には「水戸駅構内人力車組合」が建立した石碑もあった。石の街の神社らしく社殿の脇障子は地元産の石造り、そこに天狗が浮き彫りされていた。向かって右に坐像姿の天狗、左はいまにも飛び出しそうな烏天狗だ。
天狗には鼻が高く山伏姿の大天狗と、鳥のような羽根と嘴をもった小天狗(烏天狗)がいる。いずれの天狗も山に住むとされた精霊と、山を修行の場とした修験者が重なりイメージが膨らんだもの。かつて茨城県にも天狗の住む山がたくさんあった。県の南部だけでも筑波山をはじめ、加波山や岩間山(愛宕山)があり、桜川村には疫病除けや航海の神として信仰された大杉神社のアンバ様があった。幕末に水戸藩の下級武士たちが名乗った天狗党も、天狗の山の影響を受けた名称なのだろう。
足尾山を下り、真壁駅から筑波鉄道に乗って樺穂の駅に戻った。無人の駅舎に人影は無く駅前の商店も戸を閉ざしていた。この一年後の昭和62年3月31日で、この鉄道は廃止となった。