〇◎ “私が知りたいのは、地球の生命の限界です” ◎〇
= 海洋研究開発機構(JAMSTEC)及びナショナルジオグラフィック記載文より転載・補講 =
☠ 青春を深海に掛けて=高井研= ☠
ᴂ 第6話 JAMSTECの拳―天帝編― ᴂ
◇◆ 「しんかい6500」、世界一から陥落 =3/3= ◆◇
世界一、はい消えた!
続いては6月27日のことでした。
中国の有人潜水調査船「蛟龍号」が太平洋のマリアナ海溝で水深7063mの潜航に成功し、科学調査のための有人潜水調査艇による最大潜航深度の世界記録を更新したというニュースが流れました。
簡単に言うと、これまで科学調査のための有人潜水調査艇(一発勝負の冒険的調査ではなく、定常的に行われる科学調査のための潜水艇)の持つ世界記録は「しんかい6500」の6527mだったのですが、それが「蛟龍号」によって更新されたということです。
つまり「中国(の有人潜水艇の記録)が日本(の有人潜水艇の記録)を上回った」と。カッコ内を外せば、大本営的な記事があっという間に完成。
このニュースに関しては、ワタクシは二つの考え方を持っています。一つは、あえて大本営的な解釈は必要だろうということです。それで多くのステークホルダー達のお尻に業火が付いてくれるなら儲けモノだからです。
そもそも「しんかい6500」の建造を決定したとき、第二世代有人潜水艇(トリエステ号とかアルシメード号が第一世代)の開発において最も後発国だった日本は、紛れもなく「世界一」の名を取りに行ったはずだと思います。
今回「しんかい6500」の記録が500m程更新されたことに対して、「たかが500mが!」のようなナベツネ的セリフを吐いて気を紛らわせることはできますが、それは1989年にアメリカ、ロシア、フランスの関係者が日本の「しんかい6500」に対して吐いたセリフと同じでしょう。すばりそうでしょう。
「しんかい6500」の記録が輝きを持ち名声を獲得したのは、けっして記録を達成した時、そしてその達成数値のせい、ではありません。
記録達成から20年以上の長きにわたって、大きな事故やトラブルを起こすことなく極めて安全に運航を続け、世界的な科学調査の傾向としてドンドン有人潜水艇の稼働率や依存率が減少する中で、日本だけがむしろより熱心に「しんかい6500」を稼働し、技術面・運用面での改良を加えながら、簡単に対費用効果を数値化できない「有人潜水艇によってのみ実現しうるプライスレスな科学成果と社会還元」を、なんのかんの言いながら、発信し続けてきたこと。
そのブレない(ホントは結構ブレそうになっていたけど)確固たる意思に対する有形無形の称賛・尊敬を得た上ではじめて、その象徴としての世界記録が世界に認められたのだと思います。
というわけでここはまず潔く、「世界一、はい消えた!」と認めてしまいましょう。
ただし、中国の科学調査用有人潜水調査艇の技術的側面からの評価として、「ロシアの現行技術の輸入に過ぎず、技術的挑戦といったモノがほとんどない」という厳しい見方があることにも触れておきます。
それはさておき次に、じゃあワタクシ達JAMSTECは再び世界一を取り返しに行くのか?ということです。
= 人が支える海洋研究 「しんかい6500」潜航同行記 3/4 =
次々に現れる深海生物
3人が乗り込んだしんかい6500は、よこすかの後部にある「格納庫」を出て、クレーンでつり上げられた。空中で大きく揺れ、のぞき窓から大西さんが不安げに外をうかがう様子が見えた。着水すると、海面で待っていた3等機関士の貝野潤華(ゆな)さん(25)ら2人のスイマーがしんかい6500の上に乗り、クレーンとつながるつり上げ索を切り離して潜航が始まった。
よこすか船上に残された私たちは、総合司令室で2秒ごとに海中から送られてくる静止画や、潜航位置を表示するモニターを見ていた。黒潮の影響で最初はどんどん北東に流されたが、水深500メートルほどで潮の影響を受けなくなった。約30分で、水深793メートルの海底に到着。視程は10メートルと良好だ。
水の中は電波が届きにくいため、母船との音声交信には音波が使われる。「この辺りはアナゴ目や海綿が見られる」「デッドチムニー(活動を終えたチムニー)をいくつか視認した」など、海底の大西さん、飯島さんから続々と報告が届いた。
画像は不鮮明なものが多かったが、時折、ソコダラの一種や、キンメダイに似たチカメキントキなどの魚が姿を現した。大きなイソギンチャクやヒトデ、円筒状の海綿の一種カイロウドウケツも見られた。
巨大チムニーには着底から約3時間半後に到着した。ところどころでゆらゆらと熱水を噴き出していて、活発に活動しているようだ。表面には白いユノハナガニが群がっている。潜航チームはゆっくりとチムニーの上から下へ、下から上へ移動しながら調査を続けた。
餌として用意したサバは目立った「釣果」を上げられなかったが、マニピュレーターでサバを握りつぶした辺りには、ユノハナガニが集まっていた。用意した3匹はしばらくするとすべてなくなっていて、アナゴなどの深海生物が持ち去ったと推定された。
調査を終えたしんかい6500は、バラストを切り離して上昇した。よこすかの船上で待っていると、約100メートル先に白い船体がぷかりと浮かび上がってくるのが見えた。クレーンでよこすか船上に引き揚げられた後、ハッチを開けて出てきた大西さんは、出迎えに親指を立てるジェスチャーで応えた。地上に帰還した宇宙飛行士のようだった。潜航開始から7時間が経過していた。
狭い船内「暑かった」
下船した3人は「暑さに苦しんだ」と声をそろえた。密閉された空間に3人が入るため、特に夏場は厳しい環境になる。水深6500メートルの水温は2度未満だが、今回は約800メートルで海底でも約5度と比較的高く、船内は冷えなかったようだ。耐圧殻内は30度近くになっていたといい、大西さんは「海底に着いても暑いままで、つらかった」と振り返った。飯島さんも汗が止まらず、ずっと首にタオルを巻いていたという。
ただ、のぞき窓から見えた景色は格別だったらしい。飯島さんは「チムニーは年月をかけて成長したみたいで、例えるなら屋久島の縄文杉のようでした」と感動した様子。大西さんも「生物がたくさん付着していて、非常に楽しかった」と笑顔で話した。
・・・・・・・・つづく・・・・・・・
動画 : しんかい6500
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