今日は父の10回忌の日である。そんな訳で今日は朝早くから墓参りにいって父の墓前に挨拶を済ませてきた。
墓前に立ってみると、父が亡くなったのがまるで昨日のように思えるのに、もう10年が経ったと思うと月日が経つのが本当に早いと感じられた。
私の父が亡くなったのは満で90歳を迎える年であった。それまで入院することもなく、自宅で持病と闘いながら生活を送っていたが、突然心臓発作を起こし、救急車で病院に運ばれる途中で息を引き取った。家族には全く手を煩わすことなく、静かに人生の幕を閉じられた。
私の父は長年教師をしてきた。そんな訳で父はすごく厳格な性格の持ち主で、私たち兄弟は幼い頃から父に非常に厳しくて育てられた。
また、父は無類の読書家であった。現役の時は勿論、退職後も月に2,3万円ほど本を買いこみ読んでいた。そのため近所にあった本屋さんは父が電話で本を注文すれば、わざわざ自宅まで届けてくれていた。
そんな父に育てられた私は、学生時代、何事にも厳しかったので父を鬱陶しく思ったり、嫌いになったりもしたが、今はいろんな意味で本当にいい父親に育てられたと感謝している。
父の思い出は沢山あるが、そんな中で私の人生を変えたひとつ忘れられない思い出がある。それは私が中学に入って間もない頃だったが、何かのきっかけで父が3人いる男兄弟に贈り物してくれた時があった。その時のプレゼントの中身は二つ上の兄に本を、6つ下の弟には当時で言えば高級な消防車のおもちゃを買ってやり、私にはなんと「材木」を買うお金をくれたのである。
私はそれが不思議で父に何故だと尋ねてみた。すると父は「お前は勉強はせず、鳩ばっかりに夢中になっているから、それで鳩小屋でも作りなさい」ということであった。確かに私は幼い頃から犬や猫など動物ならなんでも好きであったし、特に小学校4年から飼っていた鳩が大好きで勉強は殆どせず、毎日鳩の飼育に夢中になり、学校の帰りには家にまっすぐ帰らず、大人たちが飼ってる鳩が見たくて、よその鳩小屋の見学ばかりしていた。(当時は今と違って自宅で鳩を飼ってる人が沢山いた。/私の鳥好きもこの当時から始まっていた。)
そんな私だったので、父は勉強のできる兄や弟には将来を考えたプレゼントをしてあげ、私はもう期待することがないので、好きな動物でも飼ってなさいと、なかば見捨てる感じで木材を買ってくれたのだった。
この事は私に大きなショックを与えた。その当時、思春期を迎えていた私は、確かに勉強は殆どせず、好きな動物に夢中になっていたが、父からプレゼントをもらった嬉しさよりも、逆に親からいよいよ見捨てられたという思いで本当にショックを受けたのである。
だが、私はその日の出来事が切っ掛けとなり、密かに心を改めることを誓い、一大奮起して、親の信頼を取り戻そうと必死に勉強に励むようになったのである。お蔭でそれからは人並みに勉強もできるようになり、社会に出てから今日まで自分に与えられた役目を立派に果たしてくることができたのである。
今となれば、当時、父の意図がなんであったかは知らないが、あの時のショッキングな出来事が私の人生を大きく変えるきっかけになったのは事実である。
今日、父の10回忌を迎え、改めて父を想い浮かべてみると、過ぎた日のこんな出来事が思いだされたのである。
▼墓参りの帰りに見つけたタゲリ
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